□空間の温度
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あー、寒い。
10人が10人、外に出たら絶対言うであろう。 まだ冬じゃない。そしてまだ11月に入ってもいない。なのに何故この町は、ここまで寒いのだ。
しかもこの寒さを利用してカップルどもがキャッキャウフフ楽しそうにしている。あぁ、実に羨ましい…。
「うわぁ、やっぱり外は寒いアルな。」
すっかり冬服になった町の人々、澄んだ空気を感じて神楽が呟いた。
「もう11月入るからね、雪が降るのもきっともうすぐだよ。」
新八は少し喜んでいるようだ。
やはりまだ子供なのだろう。
「冗談じゃねえ。今もこんなにさみーのにまだ寒くなるのかよ。よし、俺冬は家から一歩も出ないって炬燵に誓うわ。」
「誓わないでください。炬燵も電気代というお金がかかるものなんですから。働かないと電気止められますよ?」
「そーヨ。それに、…銀ちゃん、ちょっと太ったアル。動かないと贅肉がタプンタプンのブヨンブヨンになるネ。」
新八と神楽は銀時の腹をつまんだ。
「いたいいたいいたいたいたい!!」
「あー…確かに。」
新八が納得した。
「…え、うそ、タプン?ブヨン?」
「や、まだそこまではいかないですけど、
…近い内には。」
「…甘いもの控えれねえでも太んのやだし…」
この人これからどうなるんだろう。
素直にそう思ったのであった。
「……っ…」
それはほんの数秒だった。神楽の瞳が揺れた。
新八と銀時は神楽の目の向く方向へと意識をもっていった。
母親、子供、父親が手を繋いで楽しそうに歩き、神楽の前を通り過ぎていく。子供の歳は8歳くらいだ。昔のことを思い出したのだろう。神楽のまわりにひとつの空間ができる。
目には見えないが確かにあるように感じる。
新八にはこの空間に入って行く勇気がなかった。声をかけて、それは彼女のためになるのか、果たして戻された現実に、
幸せを感じるのか。
うだうだと考えている時だった。

銀時が新八の手を握り、神楽の手も強引に掴み歩きだした。

「さっさといこうぜ、寒い。」

新八と神楽は突然のことに吃驚したが、
だんだんとその顔は緩み、最後には少し困って、それでも幸せが溢れ出てくるような、そんな笑顔になった。
「銀ちゃん寒がりだから、繋いでてやるヨ。」
「そうかい。」

目的地、本日卵が安売りのスーパーの入り口についたときだった。
黒い服、煙草の匂い、
「あ、旦那じゃねぇですかい。」
「チッ…」
案の定、真選組の2人だった。
「…なんでお前等手ぇ繋いでんだ?」
「家族アル!!」
神楽がとっても嬉しそうに言った。
「家族ねえ…」
冲田がちょっかいをだして来るように思えて身構える神楽。
「俺も、あったな、姉上と、近藤さん…たまに土方。」
「おい。」
「土方さんはないんですかい、そういう時期。」
「…ある。」
え、と4人が耳をすませた。
「が、べつに言うことでもねえ。」
「うわ、まじ最低〜思わせぶりとかまじないわ〜」
「ちょっと銀さん!」
「うるっせーよシスコン!」
「いいじゃないすか別に!!」
手をふりほどき銀時を睨みつける。
その衝撃で神楽とも手が離れてしまったが2人はもう{新八をいじりますモード}なのであまりきにしない。
「そういう銀さんはどうなんですか!!」
「え!?いや、お俺は、土方君のききたいかなあ…」
「なんだお前、随分動揺してんじゃねえか。言ってやりゃいいじゃねーか。」
〜♪〜♪
「やべ!セールの音!行け新八神楽あ!!」
「「 う お お お お !! 」」
自動ドアが少しだけ、ほんのすこしだけ開いたその一瞬。だがその一瞬は彼の冷酷な空間の冷たさを知るには充分過ぎた。
2人は彼のほうへ振り返ろうかともおもった。だが、やめた。
真選組の2人は彼の肩をつかんで振り向かせようとおもった。だが、やめた。
無意識のうちに放っている空間を纏わせたまま、彼は悲しく笑うから。
fin.
(銀時ー!私の饅頭知りませんかー?)
(銀時ー!俺のこんぺいとう知らねー?)
(銀時ー!俺の手づくり肉球知らぬかー?)
(食った)
((…………))
(肉球を?食った?うそーん)

(あぁ、あったけえなあ)

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