縁薫v抜薫
□泣かないでベイビー〜graduation
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※抜兄の母とその恋人が登場します。イケメンの外人さんにしたかったので、外印さんのお名前をお借りました。キネマ版や銀幕草紙の若い外印さんですよー。未読の方は、金髪のやたらキラッキラした胡散臭いイケメンをご想像ください☆
今日、三月一日。
薫は卒業の日を迎えた。着慣れた制服に袖を通しながら、様々な思いが込み上げる。
両親が亡くなり、財産や家をだまし取られて…。あの時はちゃんと卒業できる日がくるとは思わなかった。
たくさんの人に助けてもらって、今日という日を迎えることが出来た…――。
「行ってきます」
両親の写真に手を合わせて部屋を出る。
「おはよ、お兄ちゃん」
「おはよう。晴れて良かったな」
「うん…」
誰より親身になって薫を助けてくれた人。
彼は薫の姿に眩しそうな顔をした。
「卒業まであっという間だったな。今日で制服姿も見納めか」
感慨ぶかげに見つめられ、思わず赤くなる。
「もう、なんかお兄ちゃん、お父さんみたい…」
照れ隠しにそういうと、緋村が眉を上げた。
「似たようなもんだろ。…薫、大変だったけど、よく頑張ったな」
やさしく頭を撫でられて、思わず目が潤む。
「あ…ありがと…。お兄ちゃんがいてくれなかったら、学校にも戻れなかったし、大学なんて絶対無理だった…。ほんとにありがとね…!」
「いいよ。そんなの気にするな」
「お兄ちゃん…」
――…と、二人卒業式の朝にふさわしい、感動的な雰囲気になったのも束の間。
「――おふくろ、いい加減にしろよ」
緋村が部屋の向こうを睨み付ける。
「いやーん、気にしないで!続けて続けて!」
いいわー、感動的だわー。
そう言いながら、ビデオ片手に扉の影から現われたのは、薫の卒業式に合わせて帰国した緋村の母だった。
「ち、千夏さん…?それ…」
「今日の卒業式、ばっちり撮るからね!」
「ええ?!やめてください…!」
青ざめる薫に千夏は遠慮しなくていいのよ、と笑う。
「写真はゲインが撮ってくれるから。ね、お願いね」
「もちろん!チナツ、カオルの晴れ姿はちゃんとシャッターに収めるから!任せてくれ」
千夏と共に来日したのは、ゲイン・ムラカミ。千夏の年下の恋人だった。
元モデルでカメラマンという彼は、キラッキラの笑顔でうなずく。
はしゃぐ二人は薫の言葉など聞いているはずもない。
「や、やめてください…!ねえ、お兄ちゃん…!」
緋村に助けを求めるが、あきらめろと首を振られる。
「幼稚園児じゃあるまいし、恥ずかしいんだけど…!」
「…耐えてくれ」