縁薫v抜薫

□泣かないでベイビー 〜Merry Christmas!
2ページ/7ページ




「浮かれやがって…」
 イライラと職場の喫煙所で煙草に火を点ける。
「何がクリスマスだ…」
 受験生…しかも家庭の事情でおもいっきり出遅れているくせに。
 秋頃、マンションの前で薫に馴々しくしていた男の顔を思い出してしまい、苛立ちは倍増する。

「――緋村先生?」
 通りかかったのはこの法律事務所の影の支配者である秘書、木戸松子。それほど年は離れていないが、代表である木戸の妻であることもあり、少し苦手な女性だった。
「何か心配事でも?」
 なにより、この笑顔の前では、何一つ隠し事が出来ないので…。


「――緋村くん、それは過保護だよ」
「ですよねえ。門限八時って、小学生じゃあるまいし…」
「受験生でも恋はしたいわよね〜」
「自分が彼女に振られたからって、妹の恋路を邪魔するなんて」
「……それは関係ありません」
 すれ違いの日々が続き、美しい恋人には愛想をつかされた。その上、おまえが悪いとばかりに、職場の誰もに責められて味方が一人もいない。傷口にぐりぐりと塩を塗られる気分だ。

 薫の件では、いろいろ事務所の皆に力を貸してもらったこともあり、事情は筒抜けだ。散々デリカシーがないと非難されて、それ以上干渉したら、口も聞いてもらえなくなると脅される。
「思春期だからねー。嫌われたらほんとつらいよ…」
 小六の娘に口を聞いてもらえないのだと、飯塚が遠い目をする。
「緋村先生も気を付けたほうがいいね。とにかく今は、触らぬ神に祟りなし。そっとしとくのが一番だよ」
「う…」
「まあまあ、緋村先生。その日は合コン、セッティングしますから!元気出して」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ