縁薫v抜薫

□泣かないでベイビー 後編
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「兄貴…本当に大丈夫かよ。神谷の娘、兄貴の下手な芝居によく騙されたな」
 先程の部屋に悪党が二人。ひそひそと逃亡の算段をしている。
「馬鹿な娘だ。親父そっくりのお人好しで助かった。金を受け取ったら、ここもさっさと出るぞ」
 優しいおじさんという仮面を脱ぎ捨てた喜兵衛が、弟を急かす。

 越路郎の借金など、喜兵衛の真っ赤な嘘。遺産と土地をだまし取るための世迷事に、世間知らずの娘はころりと騙され、返済のためにと夜の店で働かされていたのだ。
「どうして巻町組なんかと関わりになったのかは分からんが、本物の極道なんかに出てこられたら迷惑だからな」

 その時、部屋のドアが叩かれる。

「ひ、比留間さん、武田です」
 ドアの向こうで風俗店の店長が小さな声で名乗った。
「どうした?店まで行くと言っていたのに…」
 怪訝に思いながらドアを細く開けると、ガッと強引に足が差し込まれる。
「誰だ…?!」
 慌てて閉めようとしたドアが、乱暴にこじ開けられた。
「――薫の兄です。妹がずいぶんお世話になったようで」
 そこには、見るものが凍り付きそうなほど鋭い眼光で薄く笑む、小柄な青年の姿。
「何だ、お前は――…ぐわぁっ!」


 ――…ヒィィっ…!
 ――…か、勘弁してくれ…!あぐぅ…っ!

 室内から聞こえる断末魔に操が首を竦めた。
「うわ、エグ…緋村って、弁護士のくせに元ヤンだったのホントだったんだ…」
「そのようですね…。お嬢、そろそろ止めた方が…」



「――だから、おれは知らないンすよぉ、女の子雇ってくれって言われただけで…」
「いいからチャキチャキ案内しな!薫ちゃんに何かあったら無事じゃすまないからね!」

 下衆二人の始末は組の者に任せ、薫の元へ急ぐ。
「うぅ、勘弁してください〜」
 比留間兄弟への仕打ちを目の当たりにし、蒼白になった店長を引っ立てて店内に入った。
 可愛らしい店名や内装とは裏腹の、いかがわしい言葉の羅列に緋村の額に青筋が浮かんでいく。

「ちょっと、緋村。キレないでよ」
「…大丈夫だ」
 低く唸るように緋村がつぶやく。

 その時。
「――キャァ…ッ」
 店の奥の事務所から少女の悲鳴が響いた。
「薫…――!!」

 事務所のドアを開けた彼らの見たものは…。

「――…っ!」
「お嬢、見たらいけません」
 蒼紫が慌てて操の目をふさぐ。
「なに?!薫ちゃんナニされちゃってるの!?」
「何もされてません…が」

 事務所のテレビの画面には、裸で絡み合う男女の姿。
 そして、メイド服を着せられ、大人の玩具に囲まれた薫がいた。
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