縁薫v抜薫

□泣かないでベイビー 後編
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「おじさん!大丈夫?!」
 薫が呼び出されたのは古いビルの一室だった。
 髭面の大男は薫を見ると嘲るように笑った。
「ふん、逃げ出さずに来た度胸は誉めてやろう」
「か、薫ちゃん、すまない…」
「喜兵衛おじさん…!ひどいわ、こんな…」
 床に転がされた喜兵衛の額には血が滲んでいる。駆け寄って助け起こすと、喜兵衛は苦しそうに呻いた。
「ねえ、お金はちゃんと働いて返すから…もうこんなことしないで!」
「逃げ出しておいてよく言うな。だいたいあんな稼ぎじゃとても足りねえな」
「そんな…」
「こいつをバラして臓器でも売れば、ちっとは足しになるかな」
「ヒィィ…ッ」
 喜兵衛が頭を抱えて蹲る。
「だ、だめ…!そんなの絶対だめ!」
 必死で背中に喜兵衛を庇おうとする薫を、男は面白そうに見た。
「まあ…お前の心がけ次第じゃ、やめてやってもいいんだが…」
「何でも言うとおりにするから…!お願い…!」




 薫は連れてこられたのは、ピンクの内装の入り組んだ店だった。
(これって…これって…)
 世間知らずの薫でも、さすがにここがものすごーくいかがわしい場所だということはわかってしまう。
「おい、店長はいるか?」
 怯んで立ち尽くす薫の腕を、強引に大男が引きずっていく。
 受付の向こうから、二十歳過ぎくらいのセーラー服姿の女性が現れる。

「あらぁ、比留間さん。店長ならなんか上から呼び出されて、慌てて出ていきましたよ」
「何かあったのか」
「さあ?」
「前に話していた娘を連れてきたんだが…」
「んー、新人サン?こっちおいで」
 人懐こい笑顔に手招きされるが、彼女の背後の貼り紙に薫の顔は引きつる。
(オ、オプションの内容がすごいんですけど…?!)
 セーラー服にA○B風、体操服、ナース服、競泳水着…コスチュームの豊富さはともかく、オプションの内容が書かれたメニューはとても正視できない。
(く、口でとか…好きな人とでもないのに?!そんなのムリ…!)
「わ、わたしやっぱり、出来ません――…きゃっ」
 後退りした薫を、後ろから男が乱暴に突き飛ばす。
「このガキが…!ふざけてんじゃねえぞ。物分かりが悪いようならニ、三発殴ってやろうか?!」
「や…っ」
 乱暴に腕を振り上げられ、薫が顔を庇って蹲った。
「う…っ、やだ…」
 男の怒鳴り声に怯えて泣きだした薫を、女が慌てて庇った。
「ちょっと…あんまり怖がらせないでよぉ。仕事にならないじゃない。さ、こっちおいで」
 女に手を引かれ、しゃくりあげながら素直に従う。
「てこずらせやがって」
 おとなしくなった薫に男はそれ以上のことはしなかった。
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