縁薫v抜薫

□泣かないでベイビー 中編
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「…なんだかきけば聞くほどよくわかんない話だね。薫ちゃん、なんか変だよ」
「そ、そうなのかな…」
 薫は世間知らずな自分を恥じて俯いた。
 操と蒼紫に連れられ訪れたのは、あの場から遠くない操の自宅。

「操ちゃん家って、お金持ちなんだね…すごいお屋敷」
 純和風の巻町家には立派な庭や、床の間に飾られた日本刀や迫力満点の掛け軸。物珍しくて、薫はキョロキョロと見回す。
「ん?んー、まぁね」
 あはは〜と、操は明後日の方角を見ながら笑う。
「それより早く食べて。冷めちゃう」
「あ…ごめんね。いただきます。――おいし…」

 温かい食事に心もほどけてくる。

「でしょ!白さんと黒さんのご飯は何でもおいしいんだ〜」
「あの…操ちゃん、ご両親は?こんな遅くにお邪魔して…ご挨拶しないと」
「あー、ああ、母さんは亡くなってるし、父さんはおつとめ――そう!海外出張中なんだ!」
「そうなの…操ちゃんも大変なのに、ごめんね」
 操も自分のように寂しい思いをしているのかと思うと、つい涙ぐんでしまう。そんな薫にぶんぶんと操が首を振った。
「な、泣かないでっ。うちは蒼紫の他にも従兄やら伯父さんやら、ウジャウジャいるの。だからぜーんぜん寂しくないんだ!」
「…?そうなんだ。よかった」
 ほっとして笑うと、操がウッと薫から顔をそむけた。

「――おじょ…ごほん、操。ちょっと」
「なに、蒼紫…お兄ちゃん」
「……」
 二人のやりとりを黙って見守っていた蒼紫が、唐突に操を手招きし、部屋から連れ出した。
 終始無言の彼は、あまり薫のことをよく思っていない様子だ。
(迷惑かけられないよね…今夜だけお世話になって、明日には出ていこう)

 ――…おにいちゃんか…。
 操が何気なく呼んだ言葉が胸を刺す。素直に彼に甘える操と、包み込むように彼女を見守る蒼紫の姿。
 羨ましいなんて思う資格なんてない。
 だけど、彼に会いたいと思う気持ちは止められなかった。
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