縁薫v抜薫
□泣かないでベイビー 中編
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「ほら、荷物持ってやるから」
「いいです…!」
「何をしている?」
突然現われた邪魔者に男たちがいきり立つ。
「は?なんだよお前」
だが、蒼紫が何者であるか気付いたのか、その中の一人が顔色を変えた。
「おい…やばいぜ。巻町組の若頭だ…!」
「マジかよ…」
さすが巻町組の若頭。チンピラなんて目ではない。
逃げていく男たちと、自分を助け起こす長身の蒼紫を驚いたように見ているのは、操と同じくらいの女の子だった。
「大丈夫?膝から血が出てるよ」
乱暴に引き立てられていた女の子は怪我をしたようだ。涙に濡れた目がきれいで、同性の操でも少しどきりとしてしまう。
「あ…ありがとうございます」
「家出したの?」
ぺこりと頭を下げる仕草が頼りなげで、なんだか放っておけなくなった。お節介な操に蒼紫が渋い顔をしているのが目に入るけど…。
「ううん、家出じゃないんだけど…住むところがなくなって…」
何だか訳ありな様子。操の好奇心がうずうずと黙っていられなくなる。
「じゃあ、うちにおいでよ。手当てしてあげる」
「…お嬢」
「いいじゃん、蒼紫。困ったときはお互い様って言うじゃない?」
「あの…いいです。迷惑になるから…。わたし、お金返さないといけなくて…」
「なになに、借金あるの?その若さで?苦労してるんだね〜。それならなおさらおいでよ」
そう手を引こうとした操の手を、慌てたように彼女は振りほどく。
「だ、だめ…ヤクザの人が取り立てに来るの。巻き込んじゃう…。それに、逃げたと思われたら、おじさんがヤクザの人に殺されちゃう…」
ヤクザ…。思わず蒼紫と顔を見合わせる。
「ちょっと穏やかじゃないわね。…あなたいくつ?高校生?」
「…高三」
「じゃあ同い年だ。学校は?」
「…わかんない。お金払えないし、退学になってるかも…。とにかく、助けてくれてありがとう」
もう一度ペコリと頭を下げ、立ち去ろうとする少女のリュックをぐいっと引っ張る。
「きゃ…」
「まあまあ、悪いようにはしないから。ね?」