縁薫v抜薫
□泣かないでベイビー 前編
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「緋村ぁ、もう一軒行くぞー」
大学時代の友人が結婚するというので、前祝いに数名の仲間と久しぶりに羽目を外す。だが、辿り着いた三軒目の看板のいかがわしさに眉をひそめる。
「おい、伊藤…」
さすがにまずいのではないか。
「大丈夫だって。ここは普通のキャバクラと変わらないから」
「ばれたら彼女に殺される…」
ためらう新郎に悪友が囁いた。
「黙ってたらわかんねーって。エッチで可愛い子がいっぱいいるぞ〜。触っても怒られないんだぞ〜」
「――まあ…一回くらいならいいよな」
男なんて、みんな馬鹿だ。もちろん、自分も含めて。
目の前を行き交う、色とりどりの下着姿の若い女の子たち。
女の子のいる店は嫌いではないが、これはさすがに…。
頭の中に、互いに忙しくて、最近は疎遠な恋人の顔が浮かぶ。もうとっくに愛想を尽かされているかもしれないが…。
若干の罪悪感に苛まれる緋村とは対照的に、新郎の方は楽しい時間を満喫している。
まあいいかと、自分もそれなりに楽しむことに決めた。
「失礼しまぁす。エリカです」
「あ、やっと来た!エリカちゃん、こっちこっち」
黒髪を綺麗に巻いた彼女はどこか清純な印象で、淡く透けるベビードール姿に目のやり場に困った。
「遅くなってごめんね。来てくれてありがと」
伊藤が待ち兼ねたようにエリカの腕を引く。
「大丈夫?たくさん飲まされたの?」
頬を染めた彼女にクタリともたれかかられ、伊藤の顔がだらしなく緩んだ。
「ん…ちょっとだけ。お酒苦手…。でも、伊藤さんはウーロン茶頼んでも怒らないから、大好き」
「かわい〜!俺も好き!大好き〜!」
「きゃぁ、苦しいってば」 ぎゅうぎゅうと抱き締められ、くすくすと笑うエリカと、伊藤の肩越しに目が合う。
(あれ…)
潤んだような大きな瞳に、一瞬誰かの面影がよぎり、すぐに消える。
(どこかで…)
記憶を辿るが、うまく結び付かない。
エリカの方も緋村を一瞬見つめたが、すぐに目はそらされた。
※「ランパブへいこう」っていう漫画を参考にしました。よい子のみんなは行ったら駄目ですよー。