縁薫v抜薫

□見えない想い 前編
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「緋村さん」
「大丈夫だ。何か薬を嗅がされたようだが…」
 ぐったりとした娘の体を抱えなおす。
(――…これが九条家の姫…なのか?)
 美しい娘ではあるが、剣心の想像する貴族の姫という存在とはだいぶ違っていた。
 貧しい公家の姫ということだから、いろいろと苦労しているのかもしれない。
 それにしても…。
 どう見ても町娘といった風情。先程触れた娘の手のひらを、もう一度親指でなぞってみる。
(どうも、おかしい…)
 普通、公家の姫に剣だこなどできるものだろうか…?


「誰だ、その娘は?」
「やっぱり…」
 娘の顔を見て、開口一番の桂の言葉にがくりと肩を落とす。どうやら人違いをしてしまったらしい。
 
 長州派の公家、九条家の妹姫がかどわかしにあったとの知らせが入ったのが十日前のこと。
 再起を図る彼らにとって、九条家からの要請に応えないわけにはいかなかった。

 幽閉先を誤ったのは下見役の失態であり、剣心に否はないのだが、責任は感じる。
「申し訳ありません…」
「お前が謝ることはないよ」
 寝かされた布団で死んだように眠る娘は、疲労の色が濃い。殴られたのか、青黒く変色した頬が痛々しい。
「この娘、どうしましょうか」
「む…、人買いの元へ返すわけにもいかんし…身の振り先を決めるまではお前が面倒見てやれ」
「俺ですか…」
 そうこぼしながらも内心ホッとした。彼自身、両親を亡くして人買いに売られた過去を持つ。同じ境遇の娘のことは不憫に思っていた。
「つらい目にもあっていたようだからな。――あまり無体なことはしてやるなよ」
「――…なにもしませんよ!」
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