縁薫v抜薫

□見えない想い 前編
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※幕末設定で、剣心、薫、共に十七歳です。巴さんとは出会っていません。歴史背景も全く考慮してません。それでもオッケー!という寛大な姫ぎみは下へどうぞ〜。





 土蔵のなか、粗末なムシロをひいただけの冷たい床に薫は蹲っていた。
 江戸からここ京へ連れてこられて、もう二日は経つだろうか。
 一緒にここへ押しこめられていた娘たちの姿は既にない。
 カチャカチャと鍵を開ける耳障りな音がして、重い扉が開いた。風が流れ込んでくるとともに、酒の匂いが届く。
 びくりと体を強ばらせた薫を、入ってきた男が笑いながら見やる。
「心配せんでも何もせえへん」
 そう言いながらも、肩を抱き、酒臭い息を近付けてくる。
 人買いに売られ、物のように扱われ、冷たい蔑みの目で見られるのもつらかったが、この男の舐めるような目付きに比べればなんでもなかった。嫌悪に体が強ばる。
「やっ…」
「おとなしゅうせんからこないな折檻受けるんやで。可愛い顔が台無しやな」
 逃げ出そうとして殴られた頬を、汗ばんだ手で撫でられ、顔を振って避ける。 後ろ手に縛られたまま、それでも逃れようと身を捩る薫の口元に、何か湿った布を押しつけられる。
「これ以上傷を増やされたら、売りもんにならへんからな」
 薄れていく意識のなか、ムシロの上に押し倒される。
「ちょっと吸わせすぎたか?まあ、大人しゅうてええか…」
 体を勝手にまさぐられる感触もひどく遠い。

 誰か…。
 ――…誰か、なんて誰もいるはずもない。父が亡くなり、道場は騙し取られた。江戸からこんなに遠く離れた場所に連れてこられて。
 それなのに、諦めきれない涙が耳を濡らす。

「誰か…助けて…」

「うっ…」
 男がうめき声と共に倒れこんでくる。
誰かがそれを引き剥がし、薫を助け起こした。
「――…ご無事ですか?」
(誰…?)
 覗き込んでくるのは、見たことのない侍の姿。
(――…きれいな目)
 ぼんやりとした意識の中で、思わず見とれる。
 拘束を解かれ、抱き上げられるのを感じたのを最後に、薫は意識を失った。
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