お題―恋する動詞

□2.追いかける
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 ――…もう、二度と生きては会えないかもしれない。ならば、最後に一度だけ…。

 自分に言い訳をしながら、茫然と立ちすくむ体をそっと抱き締めた。


 ――…ありがとう。さよなら。


 込み上げる思いはとても言葉になどできない。ただ抱き締める腕に、万感の思いを込めて…――。





(――…剣心、待ってよ)
 京都につながる街道を進む途中、よぎったのは鈴を転がすような声音。

 思わず足を止めた剣心を、すれ違う旅人がぎょっとしたように見る。帯刀した剣心から庇うように、妻を道の端に押しやった。
 当然の反応に苦笑する。

 ただの空耳…。

 わかっているはずなのに、耳を澄まし、彼女の気配を探さずにはいられない。
 あの別れの日、束の間の抱擁。やわらかなぬくもりも、あえかな息遣いも、その香りも、すべての記憶に責め苛まれる。

 薫のためにも、その想いに応えることなど許されない。そう思って心を封じてきたのに、甲斐もなく彼女の影にとらわれている。

 悲しく自分の名を呼ぶ薫の声に、振り向きもしなかった。それなのに、彼女の泣き顔ばかりが浮かんでは消える。

 思いがけない穏やかな日々を与えてくれた、かけがえのない存在。

 だが、もう彼女の歩幅に合わせることもない。
 軽やかな足音が追いかけてくることもない。


(――これでいい。どうか、幸せに…――)

 振り切るように、足を速めた。目指す地はまだ遥か…――。




おしまい。




※この年になってから読み返すと、ほんと剣心の孤独が胸に刺さって…(涙)
和月せんせ、ほんとハッピーエンドにしてくださってありがとうございます〜!
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