お題―恋する動詞

□8.見つめる
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※明治11年です。恋人未満。



 春の遠い、冷たい風の吹く日が続く中。。
 剣心が風邪をひいた。

「ひえー、剣心でも風邪引くんだな」
「鬼のカクランってやつか?」
 呑気にからかう二人を睨み、薫は剣心の枕元に座る。
「もう、二人とも!…ねえ、剣心だいじょうぶ?」
「はは、面目ない…気が抜けたのかな」
「ここの所、色々あったもの。きっと旅していた頃の疲れも出たんだわ。夜には恵さんも来てくれるし、さ、このお粥を食べて早く休んで」
「…かたじけない」

(すげぇな…、剣心。あの粥にも顔色一つ変えずに手えつけたぜ。さすが幕末最強の猛者だな…!)

(いったい何入れたらあんな色になるってんだ…)

(これは…海苔と梅干し…?食べやすく混ぜ込んでくれたのでござるな…。薫殿の心遣い、無碍にするわけにはいかぬ…)


 その夜、粥のせいか風邪のせいか、一晩高熱にうなされた剣心だが、翌日には起き上がれるようになっていた。

 しかし…。

「――…」
(どうしたものか…)
 ごほん、おほん。
 何度咳払いしてみても駄目だった。
 どうやら全く声が出なくなってしまったらしい。


「困ったわね…」
 そう口では言いながら、薫の口元は緩んでいる。

(だって…剣心ったら可愛いんだもの!)

 何か訴えたいことがある時など、薫の袖をちょんちょんと引き、口の動きだけで伝えようとするのだが…。
 なかなか思うように伝わらなくてもどかしいのか、困ったように眉根を寄せたりする。

 そういう表情に、これまであまり感じることのなかった彼の「隙」のようなものを感じて、薫は秘かに喜んでしまっているのだった。
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