お題―恋する動詞
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※明治11年です。恋人未満。
春の遠い、冷たい風の吹く日が続く中。。
剣心が風邪をひいた。
「ひえー、剣心でも風邪引くんだな」
「鬼のカクランってやつか?」
呑気にからかう二人を睨み、薫は剣心の枕元に座る。
「もう、二人とも!…ねえ、剣心だいじょうぶ?」
「はは、面目ない…気が抜けたのかな」
「ここの所、色々あったもの。きっと旅していた頃の疲れも出たんだわ。夜には恵さんも来てくれるし、さ、このお粥を食べて早く休んで」
「…かたじけない」
(すげぇな…、剣心。あの粥にも顔色一つ変えずに手えつけたぜ。さすが幕末最強の猛者だな…!)
(いったい何入れたらあんな色になるってんだ…)
(これは…海苔と梅干し…?食べやすく混ぜ込んでくれたのでござるな…。薫殿の心遣い、無碍にするわけにはいかぬ…)
その夜、粥のせいか風邪のせいか、一晩高熱にうなされた剣心だが、翌日には起き上がれるようになっていた。
しかし…。
「――…」
(どうしたものか…)
ごほん、おほん。
何度咳払いしてみても駄目だった。
どうやら全く声が出なくなってしまったらしい。
「困ったわね…」
そう口では言いながら、薫の口元は緩んでいる。
(だって…剣心ったら可愛いんだもの!)
何か訴えたいことがある時など、薫の袖をちょんちょんと引き、口の動きだけで伝えようとするのだが…。
なかなか思うように伝わらなくてもどかしいのか、困ったように眉根を寄せたりする。
そういう表情に、これまであまり感じることのなかった彼の「隙」のようなものを感じて、薫は秘かに喜んでしまっているのだった。