お題―恋する動詞

□9.悩む
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 はあ…。

 京都白べこ。店のお仕着せのエプロンをつけて開店の準備を手伝う薫を見つめながら、左之助が盛大なため息をつく。
「なあに、浮かない顔して…。何か悩み事?手が痛むの?」
「いや…さすがに嬢ちゃんはないよなぁ」
 薫の顔を見て落胆するような表情。
「は?何よ、その微妙な顔。失礼ね」
 むっとして左之助を睨むが、彼はぽんと薫の頭に手を置いて苦笑した。
「はは、何でもねーんだ。邪魔して悪かったな」
「左之助?」
 そう言うと何も答えず、立ち去ってしまう。
「もう、なによ…」
 左之助があんなつらそうな顔で笑うなんて。悩みがあるなら相談に乗りたいのに…。



「なあ、頼むよ」
「やぁよ。何で」
 店の裏手に炭を取りに来た薫の耳に、そんなやり取りが入ってくる。
(左之助と…恵さん?)
 二人が物陰でこそこそと押し問答をしている。
「誰か他に言ってよ」
「いねぇから、仕方なくお前に頼んでるんじゃねえか」
 情けない左之助の声にむっとする。
(なによ…。私じゃ駄目なのに、恵さんには相談してるんじゃない)
 仲間だと思っていたのに、私には話してくれないなんて…。
 腹が立つし、なんだか寂しい。
 盗み聞きなんて柄でもないが、内容を聞かないことには腹の虫が治まらない。

「お前も医者なら、その辺の事情わかるだろ?」
「だからって…」
「こっちには馴染みの女もいないし、まさか嬢ちゃんに頼むわけにもいかないし…」
「当たり前でしょ!…自分ですればいいじゃない」
「利き手じゃないからどうにも具合が悪くてよ」
 心底弱り切ったような懇願に、仕方がないと恵がため息をつく。
「一回きりよ」


(私じゃ駄目って…お料理か何かかしら)

 ひょい、と二人の様子を覗いた薫はその場でかたまった。
(な、ななな何してるのー!?)
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