お題―恋する動詞
□3.諦める
1ページ/3ページ
決戦を控えた葵屋での夜。
夜中に目を覚ました薫は、屋根の上に剣心の姿を見つけた。
少しはしたないかなと思いつつ、夜着のまま屋根に登る。
「薫殿…」
あの別れの夜以来、初めての二人きり。
東京にいたときに比べて、修業の厳しさのせいか、精悍さを増した横顔にときめく心は止められない。
だが、そんな気持ちは不謹慎だと慌てて打ち消す。
明日、剣心は命懸けの戦いに向かう…。
「…だから、心次第」
そう言って、剣心は黙り込んで俯いてしまった。
なんとか元気づけたいと思い、お守りのように袂に入れていた恵の薬を差し出す。
…みんなみんな、あなたの無事を願っているの。
だから、だからどうか無事で…――。
だが、弥彦の登場で、あっという間に霧散するしめやかな空気。
(あんたが一番お邪魔虫じゃない…)
残念に思いながらも、まあいいか、と諦めのため息をつく。
(だって剣心、笑ってる)
それだけで、薫の心もほかほかと暖まった。
あの別れの日の悲しい笑顔ではない。手放しの笑顔で、弥彦と操のやりとりを見ている。
明日の戦いのことを思えば気を緩めることは出来ない。だが、何かを吹っ切ったような、どこか清々しい彼の表情を、薫は眩しく見つめた。