お題―恋する動詞

□3.諦める
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 決戦を控えた葵屋での夜。


 夜中に目を覚ました薫は、屋根の上に剣心の姿を見つけた。
 少しはしたないかなと思いつつ、夜着のまま屋根に登る。

「薫殿…」
 あの別れの夜以来、初めての二人きり。
 東京にいたときに比べて、修業の厳しさのせいか、精悍さを増した横顔にときめく心は止められない。
 だが、そんな気持ちは不謹慎だと慌てて打ち消す。
 明日、剣心は命懸けの戦いに向かう…。

「…だから、心次第」

 そう言って、剣心は黙り込んで俯いてしまった。

 なんとか元気づけたいと思い、お守りのように袂に入れていた恵の薬を差し出す。

 …みんなみんな、あなたの無事を願っているの。
 だから、だからどうか無事で…――。


 だが、弥彦の登場で、あっという間に霧散するしめやかな空気。

(あんたが一番お邪魔虫じゃない…)

 残念に思いながらも、まあいいか、と諦めのため息をつく。

(だって剣心、笑ってる)
 それだけで、薫の心もほかほかと暖まった。
 
 あの別れの日の悲しい笑顔ではない。手放しの笑顔で、弥彦と操のやりとりを見ている。

 明日の戦いのことを思えば気を緩めることは出来ない。だが、何かを吹っ切ったような、どこか清々しい彼の表情を、薫は眩しく見つめた。
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