お題―恋する動詞
□2.追いかける
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(もう…剣心ってば、足早すぎ…!)
雑踏の中、器用に人混みを分けていく剣心の背中を必死で追いかける。
一言「待って」と言えば、彼はきっと足を止めて振り向いてくれるだろう。だが、それでは何だか悔しくて…。
出会ったばかりの、ワケありの流浪人。
背丈は薫と変わらないのに、足取りは確かで力強い。
(帯刀しているのに、全然重そうじゃないし…)
やさしい笑顔に隠された、彼の壮絶な過去。踏み込むことなどできないけれど…。
(それでも、わたしは…)
――彼の背中を追い掛けたい。
「きゃ…っ」
そんなことを思ううち、足を取られてよろめいてしまう。
あ、しまった…。剣心がそう思ったときには遅かった。
ついつい普段の歩幅と早さで歩いてしまっていた。今は一人ではないというのに…。
慌てて家主となったばかりの少女の元に駆け寄る。
「すまない、薫殿。大丈夫でござるか」
「あ、剣心…」
少女がほっとしたように笑った。恥ずかしそうに立ち上がる薫に手を貸しながら、その笑顔に胸の奥が騒めく。
「つい早足になってしまった…」
不注意を詫びると、薫が首を振った。
「平気よ。ちょっと足がもつれちゃったの。鍛練が足りないんだわ」
「はは、鍛練でござるか」
勇ましい言葉に苦笑すると、どうせ…と、うらめしそうに睨まれる。
陽光を受けてきらめく、感情豊かな瞳が眩しい。寒さのせいで赤くなった頬も愛らしかった。
「…すまない。さあ、帰ろう」
薫の機嫌を取りながら、共に歩む家路。許されないことだと知りながら、胸に広がるぬくもりを消す術を知らない。
――…ひとりではない。共に歩む人がそこにいる。
その事に戸惑いつつ、傍らの気配は優しかった。
そして季節は巡り、運命の日…――。