お題―恋する動詞

□19.寂しがる
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「―――…ん」
 肌寒さに身を震わせ、薫は目を覚ました。辺りは薄い光に包まれ、秋の空気を漂わせている。
(やだ、あのまま寝ちゃったんだ…)
 隣にある剣心の寝顔に、心がざわめく。
 込み上げる慕わしさにこのまま眺めていたいが、もうすぐ夜明けが来る。昨夜の名残を纏ったまま同衾していることは、さすがに気恥ずかしい。
 名残惜しく感じながらも、そっと布団から抜け出そうとした時、あたたかな胸に引き寄せられた。
「――…おはよ。起こしちゃった?」
「いや…」
 そのぬくもりと、胸から響くいつもより低い気怠げな声。一瞬だけ目を瞑り、それを味わう。
「そろそろ起きなきゃ。…手、放して」
 本当は放してなんかほしくないけれど。
「ん…」
 その心を見透かすかのように、剣心は生返事だけで、腕の力を緩めてはくれない。
「ねえ…――っん」
 口づけで、咎める言葉は封じ込められる。
「――…もう少しだけ」
 甘えるように身をすり寄せられては降参するしかない。
 一緒に暮らしていても、後朝の別れは寂しいものだ。ぴたりと寄り添っていた体が離れてしまう心細さは、いかんともしがたい。

「もう。仕方ないわね…」
 そんなふうに相手のせいにして、その腕の中に身を落ち着かせる。すると剣心が満足気に額に唇を落としてきた。そして、隙間なく抱き寄せられ、心が暖かく満たされる。

 もともと別々の体。それが元どおりに離れること、そんな当たり前のことがこれほど寂しいなんて。

 だけど…、――それもまた、二人でいる幸せの証。



おしまい


※これもまた、朝からアララ…的展開にしようか悩みましたが、お祭り最後の作品なのでほの甘に方向転換。それはまた別の機会に。
妄想にお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!

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