縁薫v抜薫

□泣かないでベイビー〜Look at me
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「――そういやお前さ、見合いするんだって?」

 酔いも程よく回った頃、伊藤が尋ねてきた。

 ぶっ…!

 思わず口にしようとしたアルコールを吹き出してしまう。

「うわ、きったねえな」
「お前…。それ、どこから聞いた?」

 必死で抵抗したものの、百戦錬磨の木戸に適うはずもなく、無理矢理セッティングされた見合い。
 大体相手にも失礼だろうと腹を立てても、大丈夫大丈夫と笑うばかりの上司を思い出し、目眩のする思いだった。


「こないだ、うちの代表が木戸さんと飲んでその時に。張り切ってたみたいだぜ。美人でいいとこのお嬢様なんだろ」
「は?」
「相手だよ」
「知らん」
「またまた。薫ちゃんは見合いのこと、知ってるの?」
「薫には…言う必要がない」
「知らせないのか?」
「ああ」
 どうせ断るつもりの見合いだし、正直薫の反応を見るのが怖い。

 良かったねー、いい年なんだし、さっさと結婚しなよ…なんて言われたらさすがに落ち込む。


「見合い、いつなんだ」
「今度の土曜日」

 ため息混じりに答えると、面白がるように頑張れよと笑われる。勘弁してほしい。



 個室の前、注文の品を手に、薫は立ち尽くした。

(お見合いって…――)

 すう、と体から血の気が引く。
 なんでこんな急に。何も聞いてない…――。

『薫には、言う必要がない』

 じゃあ、いつ言ってくれるの。ちゃんと結婚が決まってから?

 お荷物がいなくなったから、ようやくこれでお嫁さんを貰えるって?

(何それ…!)



 ――ばんっ。
 手荒にテーブルに皿を置くと、緋村が驚いたようにこちらを見た。
「どうしたんだ?」

(どうしたじゃないし!)

 キッと睨んでみても、緋村はきょとんとした顔をするだけ。

(――…お兄ちゃんのバカ、バカバカ!)
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