みじかいの
□桃色の。
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それから、その花は毎日欠かすことなく私の下足箱に入るようになった。
嫌がらせなのかなんなのか...
見知らぬ人が、私の下足箱にわざわざ入れていると考えたらあまり気分は良くないものなのかもしれないが、何だかそのまま捨てるのはもったいない気がして。
押し花にして取って置いてしまっている。
花自体はとても可憐で、小さく可愛い。
でもやっぱり...なんて、心のもやもやが払いきれずにいる。
今日は休日。だからあの花を受け取ることは無い。私は部活にも所属していないのですこぶる暇である。
家でうだうだしているところを目敏く母に見つかってしまい買い物を頼まれ渋々外出を決めたのだった。
外は春の暖かな陽気でほんのりと花の香りがした。
何だか外に出てみたらみたで意外とよかったのかもしれない、とかポジティブ思考になり始めた私の脳裏にまたあの花のことが思い出されて溜息が零れてしまう。
いつまでもこうしているわけにはいかないのでスーパーへと歩みを進める。
家を出た時に感じたあの香りが、ふと濃くなった。
『...これ、って...!』
そう、あの、桃色の。あの花が一本の大きな木に、満開だった。
少し、近寄ると木の下には人影が一つ。
此方に気付いて少し驚いたような顔をしている。が、すぐに綺麗な笑みを浮かべる。
絵になる、なんてありがちかな?
「こんにちは、」
『へ!?、あ、えっと...こんにちは。』
突然話しかけられたもので驚いてしまう。
『...あー、その...き、綺麗ですね!』
「...そうですね、とても可憐で。」
木を見上げて、ふわり、と笑みを零した彼にどくん。心臓が跳ねた。
あれ?なんだろうこれ。訳分かんない。
この人なら、知ってるのかもしれない。この花のこと。なんて直感で感じた。
『この花、なんという花なんですか...?』
「...桃の花、ですね。」
彼は思案顔だった。
「てっきり、意味ぐらいは分かってくれているものかと思っていたんだけどな...」
小さな声で呟いて、それから、苦笑い。苦笑いまで綺麗だった。
「...毎日先輩の下駄箱に花を置いてたの、俺なんです。
先輩に、気付いてほしくて。」
反応が、返せない。
でも確実に言えることがある。私の顔は真っ赤
で、心臓が今までにないくらい早鐘を打っているってこと。
「俺と、付き合って欲しいんです。」
桃の花の花言葉は、“貴方の虜です”