みじかいの

□前を向いて
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それは突然だった。

「何処か、遠いところに…」

だなんて涼太のキャラじゃなくて、彼が差し出した手を取ることは出来なかった。

前を向いて、歩きだそう。

「もう、無理なんスよ…」

『りょ、うた…?』

震えた体で、すがるように私の腰に抱き付く彼は、今にも泣き出しそうだったし、弱々しかった。

『大丈夫、大丈夫だよ。』

「俺…こんなにも辛いって、苦しいって、逃げたいなんて、思ったこと…なくて、
俺は、弱いんだ…って、」

抱き締めて、さらさらの髪に指を通す。
私が言えるのは“大丈夫”なんてあやふやな言葉だけで、彼を安心させることは出来ない。

「誰も、知らないところで…最初からやり直したいんスよ…

海外でも、どこだっていい…!」

『目を、そらしてしまえばいいんだよ。
…嫌な現実は見ない。それじゃあダメなの…?』

「…だって…!、そんなことしたら!」

私はゆっくりと微笑んで彼の目を見る。

『今はいいんだよ、涼太。

逃げちゃいけないって、分かってるなら充分でしょう?
だって今逃げたとしても、いつかきっと、前を向けるもの。』

「名前っち…ありがと、…」

私達は微笑みあって、前を見据えた。

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