ダンウォ
□保健室=進展
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数週間前、私に彼氏が出来た。名前は星原ヒカル。彼は去年のアルテミス優勝者だ。今でも、よくこんなスゴイ彼氏が出来たなと思う。
けれど、一応付き合ってるはずなんだけど、手を繋いだりとか、その、所謂…キスとかは、まだしていない。…というか、できない。付き合えるだけでもこの上なく幸せなんだけど、やっぱり欲が無いといえば嘘になる。今までにも、取り敢えず手だけでも繋げるように色々試してみた。
例えば、寒いから手を繋いで作戦。この前実行してみたところ…
『ちょ、ちょっと寒くない?』
「…僕は別に」
『そ、そう…』
ダメだった。惨敗。
今日こそ何か進展しなければ!!と思っていたけど、なんだか頭が痛くて保健室へ行ったら、
「38.2℃だな。今日のウォータイムも休んだほうがいいだろう」
『えっ!?』
見事に熱が出てた。オーマイガー。
それでも授業に出ようとしたら保健室の先生に怒られて強制的にベッドに寝かされてしまった。そこでちょうどチャイムが鳴ってしまったため、私は仕方なく目を閉じた。
***
チャイムの音で目が覚めた。いつの間にか寝ていたようだ。今は何時だろう?時計を見ようと体を起こすと同時に保健室のドアが開いた。
「よっナマエ!」
「大丈夫?」
入ってきたのはアラタ率いる第1小隊とユノちゃんだった。その中にヒカル君の姿を確認して、顔が熱くなるのを感じた。ヤバい、今絶対顔真っ赤だ。私はみんなから目を逸らした。
『う、うん、なんとか』
「良かった…。あ、コレ。鞄持って来といたわ」
『ありがとう!えっと…今は休み時間?』
「ううん。放課後だよ」
『…嘘。本当に?』
サクヤの言葉が信じられなくて、時計を見てみる。案の定放課後だった。
嘘だ。私、放課後まで寝てたの?
「熱はどのくらいなんだ?」
ハルキが私に問う。えっと確か…
『38℃ちょっと、だったかな…』
「え!?大丈夫それ!?」
『多分…。さっきよりだいぶ楽になったし、きっと下がってるよ』
そう言って笑ったら、みんなが安堵の表情を見せた。心配、してくれたのかな。すごく嬉しい。
「そろそろ出よう。ウォータイムの準備があるしな」
「そうだな」
『そっか。頑張ってね』
「ああ!!ちょうどナマエの小隊は休みだから、ゆっくり休めよ」
『うん』
「無理はしないでね?」
『分かった』
そう言うとアラタ達はドアの方へ歩き始めた。それを見て、私はもう一度ベッドへ体を預けて目を閉じた。そういえば今日、ヒカルくんと一言も話せてないや。ちょっと寂しいな…。ちなみにアラタ達は私達が付き合ってることを知らない。ヒカル君が彼らにあまり知られたくないと言っていた。…少し複雑。
「あれ?ヒカル行かないのか?」
「後で行く」
『え…』
目を開けるとヒカル君は私のそばにいたままだった。え…。
「そっか。なるべく早く来いよ!」
「分かってる」
アラタはそう言って保健室の扉を閉めた。
どどど、どうしよう!!ヒカル君と二人きり…!!!
「…他に誰もいないのか?」
『う、うん…そうみたい』
「……そうか」
『はい……』
「……」
『……』
緊張し過ぎて会話が続かない。うう…どうしよう。
「熱は大丈夫か?」
『う、うん……!?』
ヒカル君が顔を近づけてくる。え、え。まさか…!!?
思わず目を瞑ると、こつん、と額に何かが当たる感触がした。
『……??』
恐る恐る目を開けると、ヒカル君の顔が目の前に。どうやら額と額がくっついている状態のようだ。それだけで私の頭は混乱状態。
「少し熱いな」
『……っ』
そう言うとヒカル君は私から離れた。
キス、されるかと思った。今の状況だけでもすごくドキドキしてるけど、どこか期待をしていた自分がいた。そんな思いが顔に出ていたようで、
「…まさか僕がキスするとでも思った?」
そう言って悪戯っぽく笑う彼の顔に見とれてしまう。
『…キスして、くれないの?』
自然と、そんな言葉を零してしまった。ヒカル君は目を見開いて私を見つめ、私は我に返って恥ずかしくなり、布団を被った。
「ナマエ、顔見せて」
『だだだ、ダメ!今顔真っ赤…ひゃっ』
ヒカル君が布団を剥いだ。すると、彼と目が合ってしまう。
『さ、さっきのは冗談だよ…??』
「それで通じると思ってる?」
さっき以上に恥ずかしくなって必死に言い訳をしたけれど、ヒカル君はやめる気がないようで。
ヒカル君を見つめていると、彼は私に顔を近づけてきて…
「……」
『んッ…!?』
唇が重なった。
柔らかな感触。これが、ヒカル君との、初めての…キス。唇を離して、互いに愛を囁いて微笑み合う。
しばらく見つめ合って、どちらともなくまた唇を重ねる。
すごく幸せな時間。幸せ過ぎて死んじゃいそう…。
「おいヒカル!まだか?もう少しでウォータイム始ま…」
扉が音を立てて開き、いきなりアラタが乱入。じゃなくて、ヒカル君を呼びに来たようだ。…固まってるけど。
な、なんてタイミング…!!!
「…ああ、分かってる」
唇を離すと、ヒカル君は冷静にそう言った。
「え…お、お前ら…まさか…!!」
顔を真っ赤にして混乱するアラタを横目に、
「熱が下がってるうちに、早く寮に帰ったほうがいい」
ヒカル君は私にそう言ってアラタを半ば引きずりながら保健室から出て行った。
『夢じゃ、ないよね』
私は唇に残る感触を確かめる。私、ヒカル君とキスしたんだ…!!
途端に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。このままではまた熱が上がりそうだ。
ヒカル君の言うとおり、熱が下がっているうちに帰ろう。私は鞄を持って昇降口へ向かった。消えない唇の感触を気にしながら。
熱が引き起こした進展。