おはなし

□面倒な男
1ページ/2ページ

「秀吉様・・・」


心酔した目で空を見つめ、切なげに既に他界した主の名を紡ぐ男を見て、我は気づかれないように溜息をついた。

日課のごとくその男の自室に向かうと部屋の主は縁に仁王立ちしていた。
開いた襖から見える部屋には、まったく手の付けられていない膳が置かれたままだ。
己の願望を叶えるために仕方ないことだあったとしても、この男の面倒を見るのは真ぞこ疲れる。




やれ、飯を食え


やれ、寝ろ


やれ、兵を無駄に怯えさせるな



それらを今までに何度言っただろうか。
どれだけ口を酸っぱくして言っても、あの男の耳には裏切り者の名と今は亡き主とその友の名しか聞こえていないようだ。



「全く・・・」




”メンドウな男よなぁ”





我の苦労も知らずいい気なものよ
・・・だが、







この男は必ず、日の本に不幸の星を降らせる
我には成し得ぬことを、この男はしてくれる、だから







「三成」



「・・・どうした刑部」



「飯を食いやれ」





もう暫く、この男の面倒を見てやろう
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ