長編

□fairytail
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【序章】






菫は一人だった。
元々父親の顔を知らない。
父親の事を聞くと母親が悲しそうな表情になるから聞けなかった。


父親を知らなくても充分に幸せだった。


何故ならば母親がいたから。
子供の目から見ても美しい母親が自慢だった。



しかし、シングルマザーだった菫の母親は無理をして身体を壊し、5歳にも満たない菫を残して亡くなった。


そんな菫に親族と思われる大人たちが好き勝手に言う。


「恐ろしい程に母親に似ている子供だね」


「不倫の子だろ?」


「おお、嫌だ。嫌だ」


「うちは駄目だよ。子供が受験なんだ」


「俺だって無理だよ。親の介護もあるし...」


菫が幼いから分からないとでも思っていたのだろうか?

しかし、年よりも聡明な菫は総ては理解できなくても何となくは理解できた。


母親はいけないことをした。
その末に自分が産まれた。
結果、誰にも愛されていない。


母親を亡くし、本当に一人になってしまったのだ。


結局、施設に預けられた菫。


嫌われないように、怒られないようにひたすら優等生を演じていた。



そんな頃からだ。


不思議な夢を見るようになった。





真っ白な真っ白な空間。

其処には何もなく、菫一人が座り込んでいた。


「お母さん?お母さん!」


呼んでも返事などないことくらい理解している。

でも、他に呼べる名など知らない。


「お母さん...おかあ...」


「うるせえな」


まさか人がいるとは思いもよらなかった。


涙を流したまま顔をあげると菫と同じか、少しだけ年上であろう少年がいた。


サラサラの黒髪の少年は気だるそうな瞳で菫を見下ろす。


「泣くなよ。うるせえから」


「貴方は...誰?」


「人に聞く前に名乗るのが筋だろ?」


そう言いながら、乱暴に菫の涙を袖口でふく。


「菫...菫です。貴方は誰ですか?」


「リヴァイだ」



それが彼との出逢いだった。
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