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丁重にお断りします
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『博士、なにしてるんですか?』

「んーちょっと待って」

『?』



久々に遊びに来たツギハギハウスの研究室で彼は何やら(見るからに)怪しい研究をしていた。フラスコやビーカーには色とりどりな水が入っている。お世辞にも綺麗な色とは言えないけれど。あ、あっちの試験管には透明な水みたいなのが入ってる。



「ソレ取って」

『これ?』



直ぐに私は目の前にある透明な液体の入った試験管を手渡す。彼はそれを受け取ると先程の色水の入っているビーカーに流し込んだ。

――ボンッ!



それは籠もったような鈍い音を立てて小さな爆発(つまり科学変異)を起こす。全くどこまでもお約束な場面である。



『ちょ…っ、コレ水じゃなかったの!?』

「塩酸です」

『(怖い…)』



これ以上アシスタントのように手伝わされていては命がいくつあっても足りないかもしれない。そう思い、私はキッチンへと向かった。

彼はあまり料理と言うものをしないらしい。私が来るまではここ(キッチン)はもはや廃墟と化していた。お茶を飲むのすらビーカーを使っており、そのビーカーが以前先程のような実験の道具だったとは思いたくもない。



『よし、』



鞄の中から取り出したのはお揃いのマグカップ。ここで使うためにわざわざ買ってきたのだ。これくらいの食器はあっても構わないだろう。

コポコポとやかんで沸かしたお湯をそれに注ぎ、インスタントのコーヒーを混ぜる。するとほんのり苦みのある良い薫りが漂ってきた。



『(博士はブラックの方が良いかな)』



甘党な自分の方のカップには少量の砂糖とミルクを混ぜ、水面にマーブル模様が出来た。

こうしてキッチンに立っていると新婚さんみたいだ。今手元にあるのがコーヒーだというところは目を瞑るとしよう。いつかこうしてココに立つことが出来るだろうか。あー何だか照れる。しかし学生の私にはまだ早い話しか。



『博士ー、コーヒー煎れたよ』

「ん。ありがと」

『実験おわったの?』

「んー。取り敢えずは」

『今回は何作ったの?』

「男の願望を実現させる薬」

『は?』



差し出したカップを受け取り、コーヒーを飲みながらシュタインはそんなことを言った。



『男の願望ってなに?』

「それは完成してからのお楽しみです」

『へー。…ってコラ!今私のカップに何入れた!?』

「…何も?」



そう言いながら彼は手に持っていた透明な試験管を、さっと後ろに隠す。私が見てないとでも思ったのかしら?この視力2,0の目をなめないでほしいわ。



『さっき出来た薬でしょう』

「バレた?」

『つまりはあれね。私を実験台にしようとしたわけね』

「まあね」



呆れた。何処の世界に愛しい彼女を実験台にしようとする男がいるものか。



『まぁいいわ。きっと危険なものは飲ませないだろうし。そのかわり飲ませようとするからには効果を聞きたいものね』

「ですね」



呆気なく了解したシュタインは次にとんでもない事を言いだしたのだ。



「猫化薬剤です。」

『は?』

「耳と尻尾が生えるなどつまり人間の姿をとどめたまま、程よく猫になっちゃう薬です」



仮にも彼は"保健医"。だから、体内の抵抗力や治癒を促進させるような薬を想像していた私は呆気にとられた。



「それを飲んだ君は一気に猫化します。そして…」

『…そして?』



彼は眼鏡を外すと私に近づき、口元まで"ソレ"の混入されたカップを持ってきた。



「俺に襲われるでしょう」




















01.


(だからさぁ、飲んで?)
(飲みません)





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