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□君の気持ち、僕の思い。
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『………』
ええと、何がおかしいって…顔?
いやいや そんなもんじゃない!
『!?』
愛美は声にならない叫びを上げて絶句する。兎に角 大問題だった。
それは遡る事昨晩の話。
*****
『もう!アレンなんて大嫌いよ』
「僕だってもう愛美の顔なんか見たくありません!」
売り言葉に買い言葉。ほんの些細なことで喧嘩になり、愛美はアレンの顔も見ずに今まで居た彼の部屋から飛び出していった。
苛々しながら向かう宛なんて特に無かったのだが兎に角この腹立たしい気持ちを誰かに聞いてほしくてフラフラと廊下を歩けばある事を思い出す。
夜でも日中の如く騒がしいあそこなら誰か相手をしてくれるかもしれない。そう思うが早く愛美は足早に目的地へ向かった。
「…で、此処へ来たってワケ?」
『そー』
愛美が足を運んだ先は科学班だった。そして餌食になったのは室長であるコムイ。
「愛美ちゃん、こう見えて僕も暇じゃないんだけどー」
『いいじゃん。休憩休憩』
「…で、なにがあったの?アレン君と」
漸く折れてくれたコムイは相変わらず資料から目を離さないではいるが話に乗ってきてくれる。
『え、分かる?』
「だって何度目だと思ってるの。こうやって夜中に相手してあげてるの」
『あはは…』
それなら話は早い。愛美は苦笑いで誤魔化しながらも今回の喧嘩の一部始終をコムイに話す。すると彼は何故かニヤニヤしながら相槌をうってきた。何コイツ人が一生懸命愚痴ってんのに。
『気持ち悪…』
「え、ヒドイ!折角話聞いてあげてるのに。しかもそういうのは心の中に閉まっておいてよ」
『私素直だから』
「アレン君の前でもそれくらい素直なら喧嘩もしないだろうに」
『ソレができれば苦労しないわよ』
「まぁいいや」
そう会話を流すと彼は腰掛けていた椅子から席を外して一つ背伸びをする。そして彼の机の引き出しから見るからに怪しい小瓶を取り出した。うん、怪しい。
「僕もね。そろそろ手を打とうと思ってたんだよね」
『え?何で?』
「"何で?"じゃないでしょ。仮にもエクソシスト同士の喧嘩だよ。こないだもアレン君と喧嘩して部屋半壊したのもう忘れちゃったの?」
『…ごめんちゃい☆』
そう言えばそんな事もあった。あの時は慌てたコムイの遣いでリナリーが仲裁に入ってくれて何とか収まったんだっけ。
「これ以上内部から教団を壊されたら堪らないからね」
『てへ』
「って事でコレ飲んで」
『…見るからに危険な香がするんだけど』
怪疑そうに小瓶を見つめてそう言った愛美にコムイはピースサインを見せ付けて「大丈夫」。と一言で返した。
「アレン君と上手くいくためだよ。彼の気持ちも知りたくない?」
『…!』
アレンの気持ち。それを知るのが怖いと思う自分と知りたいと思う自分とが対峙して心の中で競り合う。
でもこのままじゃ埒があかないのは分かっていた。
『もうどうにでもなれっ!』
意を決した愛美はコムイの手から小瓶を取ると勢い良くそれを口に含んだ。途端に薄れゆく視界の端でコムイが満面の笑みで「頑張ってね〜」と手を振っていたところでプツンと記憶が切れたのだ。
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