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□雪兎
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寒い寒い冬がやって来た。
昨日の夜が大雪だったせいで今日は真っ白な雪がそこらじゅうに敷き詰められている。
「愛美も早く来るさ」
『えっ私も!?こんなに寒いのに無理だよ』
真っ白な銀世界の中に胸を弾ませ子供の様にはしゃぎ、今もチラつく粉雪の中を駆け回るラビ。そんな美しい背景を背にして寒さに耐えきれずに部屋へ戻ろうとする愛美に声を掛けた。
『寒いから中入ろうよー』
ラビは雪ダルマを作るのに夢中になっていて引き返そうと叫ぶ愛美の事なんてお構い無し。
『(勝手に呼んどいて放置はないんじゃないかしら?)』
少しいじけた愛美は、そこらに積もる雪を掻き集めると塊を作って投げ付けてやった。
『ばーかラビ!』
「ぶふっ!」
『ざまみろ!私の相手してくんないからよ!』
「なにぃ!言ったな!」
するとラビも同じように雪を掻き集めるとさっき愛美が作った3倍はある大きさの塊を投げ付ける。今度は愛美に大量の雪が降りかかった。
『わっ、ちょっと!何てことすんのよ!』
「仕返さぁ〜」
『こんにゃろ!』
「うぉ!やったなー!」
負けず嫌いな二人の間でこうして暫しの間、雪合戦が始まった。
「…愛美、少しは手加減しろよ」
『ラビだって…なかなかしつこい…』
荒れた息を整えながら互いの眉間に寄った皺を見ればすぐに吹き出してしまった。こんなにも幼稚な遊びに本気になった自分達が可笑しくて堪らなかったのだ。
「ふー冷たいさ」
『そろそろ中入らない?』
「えー、まだまだ愛美と遊び足りない」
『だってもう手、冷えちゃったもん』
「そっかー?貸してみ?」
そう言ってラビは私の手を握ると自分のポケットの中にスッポリと納めた。そんなラビのひとつひとつの行動に愛美は凄くドキドキする。
ゴツゴツした大きい手とゆったりと絡まる指が心地よくて太陽みたいにあったかかった。
『平和だね』
「そうさね」
『でもさ、戦争中…なんだよね?』
自分でそう言っておきながら悲しくなってきたので ポケットの中で繋がるラビの手を強く握り締める。するとラビも愛美の手を強く握り返してくれた。
「そうさ。でも愛美の事は俺がこの命に代えても守ってみせる」
『…ありがと』
そして「約束」とでも言うように二人は触れるだけのキスをした。
戦争なんて嫌い。でも、あなたと私を繋いでいるのも戦争なんて皮肉なものね。
雪兎
(早くこの戦争が終わってあなたとの平和な日々が来ますように…)
‡End‡
→あとがき