キリ番

□梅の実
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『ただい・・・・・・』

玄関を開け何時ものように声を懸けようとして
発せられた言葉が途中で止まる。

『あ〜あ 羽倉にでも襲われた?』
依織と たまたま帰りが一緒になった瀬伊が
いつものようにからかいの言葉をかける。

『どうしたんだい?』
瀬伊を無視して依織はむぎを見下ろし困惑した顔をする。

いつもなら《おかえりなさい》の言葉と共に
華のような笑顔が依織に向けられるのだが 今日は違った。

パタパタと走り寄って来て 行き成り抱きつかれた。
《何かあったのは確実である》

『誰かに何か言われたのかい?』
むぎは依織の胸に顔を埋め首を横に振る。
『すず・・理由を言って!!』
依織には珍しく少し荒い口調で むぎを引き離し腰をかがめて
顔を覗き込みながら問い詰める。

『えへへ・・・』
『・・・・・?』
『依織くん・・・大好き!!』
『『えっ?』』

一瞬固まる2人が居た。
その後 顔を見合わせる2人が居た。

普段のむぎならば こんな所でしかも妖精という仮面を被った
小悪魔の瀬伊がいる所では 間違ってもそんな台詞は言わない。
まして 抱きついてまで言う筈がない!!

『依織く〜〜ん。だぁ〜い好きなんだってばぁ・・』

それは重々承知しているのだが・・・
様子を伺うために むぎを暫し見つめる依織。
むぎは自分が伝えた言葉に対して 返事がないのが不満のようである。

さっきまでの笑顔がみるみる曇ると 目が潤み始める。

『依織くんは・・・あたしの事嫌いなの!!』
『そ・・そんな事はないよ』
『うっそぉ〜!!いつもなら直ぐ 僕もだよって言ってくれるじゃない』

訳がわからない依織を他所に 瀬伊がむぎに話しかける。

『何も答えてくれない松川さんより僕にすれば?
 僕 むぎちゃんの事 大好きだよ!!』

むぎは瀬伊の顔をチラっと見ると にっこり微笑む。
『ホント!』
『ああ 本当だよ』

むぎが依織の腕の中から離れようとした時 依織が強く抱きしめる。
『瀬伊 悪いが君に そして・・誰にもすずは渡さないよ』

ふわりとむぎを抱き上げると 2階の自室に向かう。

『キャーっ!高〜い・・・。依織くん。すご〜い。
 天井が近いよ。楽チンだよ・・すご〜い』

瀬伊はキッチンに向かい納得する。
そこには 今が旬の『梅の実が熟す時期』に作る酒がある。
今回作った分は綺麗に密封されており 問題は去年作った
梅酒の味見をしたのであろう梅の種が5個くらい
お皿に綺麗に積まれていたことだ。

焼酎漬けの実を5つも食べれば むぎならば酔うだろう。
それが さっきの行動に繋がったのだろう。

まだ訳を知らない依織が哀れだと思いながらも瀬伊はクスっと笑う。
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