キリ番

□神に感謝する日
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休日の昼下がりリビングのソファーに腰を下ろし
昨日買ってきた小説に目を通す。
冬の柔らかな陽だまりの中穏やかな時間が過ぎていく・・・・。
キッチンからはクッキーでも焼いているのだろう甘い匂いが漂ってくる。
僕の好みに合わせた糖度控えめのクッキーを頬張るのも
あと少しのようだ。

『依織くーーん』
暫くするとキッチンから愛しい女が僕の名前を呼ぶ声がする。
『何だい?』
小説から目を離さずに気のない返事をしてみる。
『クッキー焼いたんだけど食べるでしょっ』
『ああ・・そうだね。お茶の時間にはまだ早いけど
 折角だから頂こうかな・・・』
パタパタとキッチンを歩き回るスリッパの音が心地良い・・・。
段々その音がリビングに移動する。

『上手くやけたの・・・』
にこにこしながらクッキーの器を挟んで向こうとこっちに
ティカップが一脚ずつ置かれた。
僕はパタンと本を閉じると小さな溜息を吐いた。
『どうしたの?余り欲しくない?』
さっきまでの笑顔が多少曇る・・・。
『そうじゃないんだ。ただ・・・これはこうでしょ!』
向こう側にあるティカップをソーサーごとこちら側に並ぶように移動させる。

『むぎ・・おいで・・』
自分の隣をポンと叩きながら言う。
『うん♪』
少し曇っていた表情が パッと明るくなり嬉しそうにちょこんと
隣に据わった・・・。
僕はクスっと笑いながらむぎの髪に軽くキスをする。

今こうしている事が時々夢なんじゃないかと思うことがある。
長い道のり平行線を辿ってきた僕らにとって
この結果は思いがけない偶然の中で起こった。
むぎの両親が生きていたのなら 僕らはまったく別の世界で生き
違う誰かと暮らし一生交わることもなく人生の幕を閉じていただろう。
一生の内一億二千万の人の中で一体何人と出会えるのか?
僕は彼女と出会えた事を神に感謝する・・・・。

正直彼女が御堂家に家政婦として一哉に連れられてきたときは
学校の女の子と同じように接してきた。
付かず離れず適当な距離を保ち 適当に相手をし笑顔の仮面を付け
ラプリンスの松川依織を振舞っていた。
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