Treasure N

□玲那様より3
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薄れゆく意識の中、無表情に佇む友達を見た。



名前の無い話



ゆっくりと目を開く。
真っ暗な世界。逡巡の後に目を覆われているだけだと知った。
視界を奪われたこの状況に、恐怖よりも安堵を覚えた。

きっともう目覚めることはないと思った…
友達を騙し続けた罰だと。
俺は彼を騙し続けた故に、彼の手で殺されるのだと。
徐に腕を動かそうとして、それが不自然な形で拘束されていると気付く。
捻り上げられ後ろ手に一纏めにされた状態。それだけじゃないかもしれない。
少し力を込めるだけで痛みを感じる。

「目、覚めたんだ。」

無機質な声が、彼のものだとなかなか思い至ることが出来ずにいた。
普段聞く柔らかなものとは違う。
しかし、あまり恐怖は感じなかった。
相手が彼だから…だろうか。

「慌てないんだ?」

きっと笑ったんだろう。
息が吐き出される気配、それが喉元に触れる。
反射的に身を竦ませるとまた彼の笑う気配。
慌てても始まらない。今の俺の状況を…

「スザク、これはどういうことだ。」

「君の思ってるままだよ。」

「俺は分からないから聞いてるんだ。」

「嘘ばっかり。」

「答えろスザク。これはどういうことだ。」

再度の問いにスザクが答えることはなく、スッと手首に触れられる。
戸惑い目を瞬かせたが視界は何も変わらなかった。
無意識に逃げようと力を加えてしまったのか、擦れるような痛みが走り小さく呻いた。
ピクリ、と、俺に触れている部分が震える。
ゆっくりと離れたかと思うと今度は湿った何かが額に下りた。

「えっ…?」

熱を持ったそれが彼の唇だと気付いて思わず声が上がった。

「スザク、一体何のつも…」

突然呼吸を止められた。
俺の口に当てられたそれが、今しがた額に触れたものと同じものだと本能で悟る。
驚いている間もなく口内にぬるりと侵入してきたそれ。
彼の…知らなかった、弾力があって、柔らかくなんてなくて、まるで生きているような…

「う…ふ…っ。」

押し返そうにも腕を動かすことも出来ず、足が空を蹴り無駄にもがく。
しかし、どうにもスザクを振りほどくには力が足りないらしく肺に酸素は入ってこない。
舌で押し返そうとしたら逆に搦め捕られて余計に息苦しさが増した。
そうか、スザクはこうやって俺を殺す気なのか…
霞がかる意識でぼんやりと思う。

「はっ…やめ…っ、くるし…」
顔を左右に振り、何とかそれを避けようとする。

追ってくる彼を振り切ろうと思い切り顔を仰向けた。
やっと解放され、ずいぶん久々に感じる酸素を体内に詰め込む。
と、

「ひうっ…!」

無防備になった喉元に軽く噛み付かれ、情けなく喉が鳴った。
自分が今どうなってるのか、全く把握出来なかった。
どうしてスザクはこんな…こんな…

「あっ、おいっ…スザク?何…何、して…」

衣擦れの、音…

外気に触れた肌が初めて恐怖で粟立った。
相手の真意が読めない恐怖。

「やめろっ…!やめ…ろって言って…っ。」

彼の手がベルトに掛けられたのを感じて蹴り飛ばすつもりで足を動かした。
しかし足首を捕らわれ簡単に押さえ込まれてしまう。
上は肌蹴られただけだったが下は完全に取り払われ、今更ながら今自分がベッドの上にいるのだと気付いた。
しかしそんなことに気付いたところでこの状況を脱する方法なんて浮かばない。

「スザク、何を…」

みっともなく声が震えていた。
スザクが何の為に何をしようとしているのか、何も分からない。それが恐い。

「ひっ!」

脇腹を突然撫で下ろされた。
チュッ、といやに響く音と共に鎖骨に吸い付かれる感覚。
その間にも手は徐々に肌をなぞりながら下っていく。
もしかして、いや、そんな筈は…
一つの可能性。しかし、正解である確率はとても低い、その筈の場所。
しかし、そこに、スザクの手が辿り着く。

「ふぁ…!」

熱い手に包まれて全身に震えが走った。
待て、この次に予測されるスザクの行動は…しかし…そんな…

「あ…」

葛藤空しく、熱い手はそのまま上下に動き始めた。
少し痛いくらいの力を入れられて、むくむくと沸き上がるのは恐怖ではなく快楽だった。

「は、あ…っ!やだ、スザク、やだっ!」

悲鳴にも似た声で叫んでもスザクは何も言わない。行為も、止まらない。

「やめ、ろ…ふ、あ…スザク…ぅ。」

段々と高みに引き上げられていく。
強制的に与えられる刺激に真っ暗な目の前がチカチカした。

「君が、いけないんだからね。」

何を意味が分からないことを…
俺は…こんな辱めを受けるようなことは何も…

「あ、っ…やっな…に?何…うあぁ…!」

言葉を紡ごうとしたところでひたりと後孔に冷たく濡れた感触が訪れた。
弛緩しかけていた体が一息に強張る。
本能的な恐怖が沸き起こり汗が流れた。

「それ、はやめろ…おねが、だか…くっ、あ…!」

震える声での懇願はやはり受け入れられなかった。
何かが有り得ない場所に埋められる。
信じられない痛みと恐怖と異物感に唇を噛み締めると、そっと柔らかなものが重ねられた。
きつく結んでいた唇を割るように、温かなものが滑り込み、口腔を侵す。
それと同時に更に中に、更に奥にと異物が押し進められ、吐き気と恐怖で目に涙が溜まった。
が、それはすぐに視界を奪う布に吸われ、不快な感覚だけを残す。

「もう、や…だ…」

少しでも辛さを和らげようと肺いっぱいに空気を取り込んだが、ぎちりと腕が痛み、咳となり吐き出してしまった。
苦しい。苦しい。もう嫌だ。
泣き言は嫌いだとか、言っていられなかった。
しかし、中を弄られる不快感の合間に、何か、ほんの少し別のものを、感じ取っていた。

「あ…うっ…これ、何…なっ…」

痛みが消えるのならとその感覚を追い掛ける。
意識すればする程、それは鮮明になった。

「…何、気持ち良いんだ?」

「ふぁっ…!」

異物が一気に抜き取られた。
怒りを孕んだ声色に自然、体が逃げを打つ。
と言っても、逃げる方法などないからこうしているわけだが。

「君って淫乱ってやつなんだ。」

冷たく響く言葉に声も返せずにいると、

「無視?」

「ひぁっ…!」

ぴん、と先端を弾かれた。
あんなに痛くて恐いことをされたのにまだ力を失っていない己に戦慄が走る。

「もしかしてさ、初めてじゃないの?」

思わず聞き違いかと思った。
彼は、何を言っているんだろう。
しかしその疑問は、投げ出していた足を掴まれ腰ごと持ち上げられたことで霧散する。

「や、嫌だスザク…あぁうっ…!」

灼熱、だった。
それが何かなんて考えてはいけない。
必死に思考を中断させる。
熱した火掻棒に腹まで貫かれたような。

「痛いっ…やめ、ろっ!スザク!スザ…ク、抜いて…!」

突き立てられたものは凶器でしかない。
呼吸をする度に腹の中の熱が内部を焦がす。
少しの間何も言わず身動きもないスザクだったが、前髪をさらりと掻き分けられるのを感じた。
痛みが、少しだけ治まった気がした。まだ痛くて痛くてたまらないけれど。

「ルルーシュは優しいから、僕のこと許してくれるよね。」

許す…何を?どれを?
やはりこれは、俺を辱めようと、そういうことなんだな…?

「ルルーシュは…」

「ひっ…!」
「誰にだって優しいから…っ!」

懺悔のような静かな時間は過ぎ、灼熱が再び熱を上げた。
突き上げられる。痛みが。擦られて。摩擦が。
心臓が破裂してしまいそうな衝撃が全身を襲う。
内蔵がぐちゃぐちゃに潰され掻き混ぜられている。
あまりのことに意識が遠のきかけたが、思い切り揺さぶられそれも叶わない。
いつの間にか滑りが加わっていて、血が溢れているのだと知った。
もうこの痛みの原因を探ることさえ困難で。

「や、あっ…!痛いっ、スザク!」

「君はっ、君はどうして俺のことを見てくれないんだ…!」

「あっあ…も、助け…て…」

目に巻かれた布が重さを増した。
スザクの言葉が耳には入ってくるのに、脳にまで届かない。
それを伝える筈の神経は今、与えられる衝撃を受け止めるのに必死だった。
スザクの動きが止まる。
さっきから痛んでいた腕に触れられ、

「僕は君しか見えないのに…」

泣きそうな声で告げるものだから…

「スザ…ク…っ、ぅあ!」

声を掛けようとしたら突然動きが再開される。
言葉は飲み込まれ、代わりに悲鳴が上がる。

「あっ、ん…あぁっ、う、あ…!」

熱が、体内で弾けた。
じわりと浸食される感覚に体が震え、ただ何も出来ずにくたりと力を抜いた。
スザクの、恐らく指が、布越しに俺の眦をなぞる。

「…ごめん、僕以外の誰もこの目に映したくないのに、僕自身、この目に映るのが恐い…」

ぎゅっと、抱き締められた。

ああ、スザク。俺はお前を苦しめたのか…
こんなことしなくても、俺は…

自由を失った腕をその背に回すことが出来ないのが、何よりも痛いのだと気付いて息を吐いた。
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