恋を、
 している









おはようも、ありがとうも、
さようならも

大切なことがすべてなくなっていくような、そんな気がして、
それを喜ぶ人と、それを哀しいものと捕らえる人、2つに分かれて両極端にいる自分をみつけた







肩を叩くのに戸惑う
名前を呼ぶのをためらう
うまくことばが出てこない

そうやって恐る恐る伸ばした手が、ひとたび、触れてしまったのなら、頭の中はひとつのことでいっぱいになる。
あのひとのことだけで、いっぱいになる。

私ばかりが夢中になっているのかと思うほどに。
けれど、そうじゃない。

「余裕なんか、ねえよ」
という彼の言葉に、「私も」と返したのを、そのときの伝えようのない気持ちを今でも覚えている。

異常ではないだろうかと思っていたのは自分自身だけで、
それはありふれたことだった。












手足の指先に痺れるような感覚がはしり、体が冷え切っているということにようやく気がついた。

こうしてどのくらいここにいただろう。
時間にすればたいしたことはないのだと思う。

生活感のない、綺麗に塗られた白い手摺りにもたれると、その冷たさに震えた。

からっぽの部屋にいたくなくて、とにかく外へ、と這うようにして出て来てしまった。
せめて、あのひとが帰って来るまで。なんて。

(不安なことなんて、何もなかったはずなのに)

そうは思っても、身体は外へ、向かう。

(どうしたいの?)

わからない。

空はすっかり暗くなって、音も、匂いも、すべてが研ぎ澄まされて硬度を増していく。

ただぼんやりと口ずさむはずだった歌は、寒さで掠れた声に邪魔されてすぐにフェードアウトした。



大事にされていると思う。
私が仕事をすることにも反対しないし、今まで通り、ただ一緒に。
あのひとと私。
そういうものなのだと、思っていたのに。






「どうした?」

唐突に背後から掛けられた声に曖昧に「いや・・・」と言いながら振り返った。
咄嗟に、笑えない。
今の私はどんな顔をしているだろうか。

「おかえり」

「ああ」

心配そうに、または怪訝そうに、眉をひそめてシカマルは私の身体を引き寄せる。

「何かあった?」

何も言わず、首を横に振るだけで応え、促されるままテラスから室内へと戻る。
何があったわけでもなく、
何をしたいわけでもなく、
どうしたいのかも、どうして欲しいのかもわからない。
あなたがきらいになったわけでも、決してない。

「うわ、冷て」

私の身体の冷たさに驚き、シカマルは急いで窓を閉め、暖房のスイッチを入れる。
しばらく無言で待つと機械の振動音が聞こえはじめる。
同時に、埃っぽい匂いがして鼻の奥が痛くなった。

「さっき、外にいるおまえの背中見たときにさ」

シカマルは、慎重に、慎重に言葉を選ぶひとだ。
ゆっくり、ひとつずつ紡いでいく。
それが私は、とても好きだ。

「頭、殴られたような感覚になった。何か、忘れてるような気がして。
うまく言えないんだけど、」

その先は、もしかしたら私が探していたものかもしれない。
私が、あなたに、伝えたいことかもしれない。
若しくは、そのことばがもらえるのならほかに何も、いらないと思えるような。



怖いことは決してなくならない。
すべて捨ててしまいたくなることも、あるかもしれない。

だけど、
私自身がわからない私のことすら、理解しようとしてくれるこのひとのことが、どうしようもなく、大切だ。

それはきっと、これからも、
何も、かわらない。











end



☆健さまリクエスト
シカテマ、夫婦設定

私の中の結婚イメージ。


2008/1/15 すず

 

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ