novel
□境界線
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テマリは明朝、帰路に着く。
いろいろとあった砂隠れの里も、今は大分落ち着きを取り戻してはいるが、それでもできるだけ早く帰ろうとするのは、弟たちを心配してのことなのだろう。
明日は、俺には別の任務が入っているため、見送りには他の忍が来るはずだ。
そのことを簡単に説明しながら、考えることはひとつ。
(だから、これでまたしばらくは会えないってことだ)
「そうか」
聞き終えたテマリは低くそれだけ言うと、少し前を歩いていた俺の腕を掴んだ。
驚いて振り返った先に、紫紺の色がふたつ、あった。
光りをよく反射するその瞳に映る世界が、ぐにゃりと歪んだ気がした。
だがそれはほんの一瞬のことで、テマリは急にふっと笑うと、3分の1ほど残ったソーダ水を差し出した。
「これ、やるよ」
「はぁ」
曖昧に返事をして受け取ったそれには、先程の瞳を思い出させる、歪んだ景色が、移っていた。
「それとさ」
言いかけて黙るテマリの顔が、思ったよりも近くにあって、頬が熱を帯びていく。
どれくらい、そうして次の言葉を待っていただろう。
たぶん、時間にすれば数秒のことだ。
だけど俺には、もっと長く思えて、もっと短くも、感じられた。
「何でもない。じゃあな」
呆然とする俺の前を金色の髪が横切り、はっとして目で追えば、そのひとは振り返ることもなく宿の入り口へと消えて行った。