novel
□S.O.S
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『S.O.S』
別に、けんかというほどのことではなかった。
そうではないけれど、
ほんの些細なことで、私は彼を、彼は私を、
傷つけることができるのだと思うと嫌になってしまう。
もしこのまま私が帰ってしまったとしたら、
その傷は、治ることもなくどんどん広がって、痛みも増していくだろうということが分かっているから、
私たちは今お互いから離れることもできずにいる。
そういうときには決まって、私たちが何をする訳でもなく、例え喋らなくても時間が過ぎていく場所を探した。
いつもより歩幅も小さくゆっくり歩く彼の後を、私が少し遅れてついていく。