novel
□therapist
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「前の任務が長引いてたから別の者を向かわせる手筈になってたんだが、
ギリギリ間に合ったんだ」
簡潔に説明すると、テマリは俺の前に回り込んで、わざとらしく上目遣いで微笑む。
「嬉しそうだな?」
「誰が」
こういうときに間髪入れずに悪態をつける自分に感心する。
「言って欲しいのに」
ごく小さい声で、テマリが呟いた気がした。
すぐに表情を窺ったけれど、いつもと変わらない。
気のせいか。
俺は何か話題を探した。
弟たちは元気か、とか、当たり障りのない、世間話というやつだ。
慣れない思考パターンに四苦八苦していると、テマリが森を見たいと言い、合同会議自体は明日なので連れて行くことにした。
聞けば、植物が好きなのだと言う
(その割にすぐ薙ぎ倒すけどな、と言ったら殴られそうなので、言わないでおいている)。
寒い時季に咲く花は好きだ、とテマリは言う。
理由は、強いから、だとか。
しばらく楽しそうにいろいろ眺めていたのだが、
急にその場にうずくまり、俺が声をかけようとすると、
そのままばたりと、倒れ込んだ。
「テマリ?」
呼んでみるが、返事はない。
全身に一瞬で緊張が疾る。
駆け寄って、未だ動かないテマリを抱き起こす。
「おい、大丈夫か、テマリ!?」
テマリは何も言わず、閉じた瞼も開く気配はない。
しかし、俺は気づいた。
一見ぐったりしているような表情の中の違和感に。
――口唇の端が微妙に上がっているような。
「・・・おい」
「バレたか」
小さくそう言うと、テマリは目を開いた。
俺の顔を見て悪戯っぽく笑うと、「大成功」と言った。
そして跳び起きて、落ち葉や土で汚れた服をはたいている。
俺は何が何だか訳も分からずにただ呆然とその一部始終を眺めていた。