novel
□signal
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まさか、このひとが泣くとは思わなかったんだ。
慌てている俺を見て、テマリは笑った。
そして、
「さあね」
と言う。
嘘つけ。
今もう思いっきり泣いてんじゃねえか、
と思ったけれど、
それは言わないでおいた。
代わりに、
「俺はお前が死んだら泣く」
と言った。
次はいつ会えるか分からない。
会える保証もない。
だから言っておきたかった。
それなのに、テマリはその言葉をうまくかわす。
そして気づく。
俺はもしかしたら、このひとがこんな風に言葉を受け流すのを分かっていて、
でもそのときに見せる笑顔を見たくて、
想いを伝えているのかもしれない、と。
テマリが、明るく、子供のように、笑う。
ああ、それが見たかったんだ。
今はまだ、それだけで。
END