novel
□signal
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「明日の朝、砂に帰る」
「ああ、そっか」
(寂しくなるな)
言って欲しい言葉を心の中で勝手に付け足す。
「なあ、テマリ」
彼は私の名前をあまり呼ばない(大抵おい、とかお前、とか言われるから)。
だから呼ばれると、ほんの少しだけ、緊張する。
「俺が、もし、死んだら――――」
それだけは、聞きたくなかった。
私の目から溢れてくるものを見て、彼が驚く。
無理もない。
私は、弟ほどではないが、あまり感情を表に出すことはしない。
それが風影の娘として生まれた私に課せられた、
宿命、みたいなものだったのだろう。
私は、女である前に、人間である前に、忍として生きる道を予め用意されて生まれて来た。
そして、
”それ”以外を知らないから、
”それ”を普通として育った。
だけど、この男の前では、
私はただの弱い人間でしかないことを思い知らされる。
何にしても、
私は、
男に涙を見せたのはたぶん初めてかな、
と思った。