novel

□signal
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少しでも長く一緒にいたくて、ゆっくり歩く。

俺は振り返って、黙ったまま数歩後を付いてくるテマリを呼んだ。

そして立ち止まる。

テマリは、その数歩の距離を保ったまま、止まった。

そのまま次の言葉を待っているようだったが、
俺は別に、話があって呼んだ訳ではなかった。

立ち止まれば、テマリが追い付いて来ると思ったのだ。


「強くなったな、シカマル」

そう言う声は、優しかった。

だけど、いつもより抑揚がない気がするのは思い過ごしだろうか。


違う、俺は、本当は―――――


言いたいことがうまくまとまらない。


テマリの笑顔が、痛い。


「お前は、いつかもっと遠くなってしまう気がする。
だけど私はそれが嬉しくもある」


俺が、遠くなる?

お前から。


「逆だろ」

口を突いて出た言葉も、届いていないようだった。


「訳分かんねえこと言ってんなよ。
俺が何したんだよ・・」



この距離を埋めたくて必死なのに。



テマリはふっと笑うと、歩き出した。

俺の横をすり抜けて行ってしまいそうになるのを、
腕をつかんで、引き寄せる。

テマリは少しだけ、俺の腕から逃れようと身じろいだが、
純粋に力だけなら、当然俺の方が上だ。


「お前って、こんなに小さかったっけ」


自分でも場違いな声を上げてしまったと思う。

テマリは逃げるのも諦めて、呆れたとばかりに溜息をついた。


「お前が大きくなったんだろ」


そうか。

当たり前のことだったな、と思う。


「私は弱い」

「お前が?」

「お前の方がずっと強い」

「そうかな」



「何でもない。
少し弱気になっていただけだ」

「へえ」



テマリは大人しく俺に抱かれたまま、空を見ていた。


こんなに近くにいるひとのことを、俺は何も知らない。

身体の距離は所詮、ただそれだけのことなのだと、
今更ながら、悲しくなった。





 
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