novel
□AM
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pm 11:50
ああ、夏が終わる、なんて自分の膝の上に頬杖をついた彼が呟くから私は吹き出した。
私の両手にはそれぞれ30cmほどの棒が握られている。
そこから火花が勢いよく飛び出して、反して棒は短くなってゆく。
右手には白い火。左手には赤い火を持って、私はいつもより子供染みて見えただろうか。
少し戻ってpm 9:10
小さな公園にはあまり人影はない。
花火をやったことがないと言う私に、シカマルは両手に抱えるくらいのそれを持って来てくれた。
少し、遅刻だったけれど。
いつもあまり表情が変わらないそのひとの、「さぁやろーぜ。」と言ったその顔が、心なしか得意げで、うれしそうだったから、私は彼から見えないようにこっそり笑った。
ひとつめに火を点けると、勢いよく火花が飛び出した。
照らされて、暗闇の中から彼の顔が浮かび上がって見えた。
瞬間、その目が私の方に向けられていることと、つまりは私も、そちらを見ていたんだということに気づいたけれど、静かに鼓動を早くする心臓が邪魔をして、すぐに目を反らしてしまった。
火の方に視線を戻すと、それは思っていたよりずっときれいで、私とシカマルとの間に、線を描き続けていた。
(切っても切れない。)
などと弱々しく考える。
らしくないと言えば、その通りだ。
再びpm 11:50
シカマルの両手いっぱいに抱えるほどあった花火はもう、線香花火だけになってしまっていた。
「なんか・・小さくてあまりおもしろそうじゃ、ないな。」
「分かってねーな。これがいんだよ。」
私が漏らした言葉を否定すると、シカマルがその束に手を伸ばした。
同時に私も。
自然と、手が触れる。
そんなこと、気にしてないよという顔で、私たちは線香花火に集中する。
手が熱を帯びているのは、触れ合ったからじゃなくて、きっと火に近くで照らされているからだ。
やがてオレンジの光の玉がぽとりと落ちると、真っ暗になった周囲の温度が急激に冷えた気がした。
それで、何か話そうと思い立つ。
「私、言ってなかったことがある。」
シカマルは少しだけ眉間に皺を寄せて、こちらを見た。
「明日・・・あ、もう今日かな。」
「?」
「誕生日なんだ。私の。」
「!!!!!」
まじかよ、と言いながら片手で額を押さえる彼を、笑って見つめた。
「別に何もいらなかったから、言わなかった。」
「でも」
「いいんだ、本当に。私知ってるし。」
「何を?」
シカマルの問いに、私は答えなかった。
かわりに空を見上げて、
「月が、綺麗だね。」
と言った。