novel

□AM
1ページ/2ページ

 






pm 11:50

ああ、夏が終わる、なんて自分の膝の上に頬杖をついた彼が呟くから私は吹き出した。

私の両手にはそれぞれ30cmほどの棒が握られている。
そこから火花が勢いよく飛び出して、反して棒は短くなってゆく。

右手には白い火。左手には赤い火を持って、私はいつもより子供染みて見えただろうか。






少し戻ってpm 9:10

小さな公園にはあまり人影はない。

花火をやったことがないと言う私に、シカマルは両手に抱えるくらいのそれを持って来てくれた。

少し、遅刻だったけれど。

いつもあまり表情が変わらないそのひとの、「さぁやろーぜ。」と言ったその顔が、心なしか得意げで、うれしそうだったから、私は彼から見えないようにこっそり笑った。



ひとつめに火を点けると、勢いよく火花が飛び出した。

照らされて、暗闇の中から彼の顔が浮かび上がって見えた。



瞬間、その目が私の方に向けられていることと、つまりは私も、そちらを見ていたんだということに気づいたけれど、静かに鼓動を早くする心臓が邪魔をして、すぐに目を反らしてしまった。

火の方に視線を戻すと、それは思っていたよりずっときれいで、私とシカマルとの間に、線を描き続けていた。



(切っても切れない。)



などと弱々しく考える。
らしくないと言えば、その通りだ。






再びpm 11:50

シカマルの両手いっぱいに抱えるほどあった花火はもう、線香花火だけになってしまっていた。

「なんか・・小さくてあまりおもしろそうじゃ、ないな。」

「分かってねーな。これがいんだよ。」

私が漏らした言葉を否定すると、シカマルがその束に手を伸ばした。

同時に私も。

自然と、手が触れる。



そんなこと、気にしてないよという顔で、私たちは線香花火に集中する。

手が熱を帯びているのは、触れ合ったからじゃなくて、きっと火に近くで照らされているからだ。



やがてオレンジの光の玉がぽとりと落ちると、真っ暗になった周囲の温度が急激に冷えた気がした。

それで、何か話そうと思い立つ。



「私、言ってなかったことがある。」



シカマルは少しだけ眉間に皺を寄せて、こちらを見た。



「明日・・・あ、もう今日かな。」

「?」

「誕生日なんだ。私の。」

「!!!!!」



まじかよ、と言いながら片手で額を押さえる彼を、笑って見つめた。



「別に何もいらなかったから、言わなかった。」

「でも」

「いいんだ、本当に。私知ってるし。」



「何を?」



シカマルの問いに、私は答えなかった。

かわりに空を見上げて、
「月が、綺麗だね。」
と言った。






 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ