novel

□境界線
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『境界線』







空になったソーダ水の瓶を振ると、中に入っているガラス玉が転がり、カラカラと涼し気な音をたてる。



俺はその瓶と前方を交互に見ながら、しばらく、その場に立ち尽くしていた。



強い耳鳴りを聞いたときのように、頭がぐらぐらと揺れる。

柔らかい砂に足を取られ、次第に、埋まっていくみたいだ。



暮れかかった空と、同じ色をした瓶が、あのひとの瞳を思わせる。








暗く、なっていく。










「木ノ葉の暑さは、砂とは違うんだ」

「へえ」



うんざりしたように、テマリは言う。

乾いた砂の暑さとは違い、木ノ葉の夏は、

「湿気が多くて、ベタベタする」

のだそうだ。

上昇していく体温を少しでも下げたくて、通りで売っていた、瓶入りのソーダ水を買ったのだと言う。

俺に会う前のことだから、もう小一時間くらいそれを飲み終えることなく持ち歩いているらしい。

何故かと聞けば、迷いも躊躇いもなく、

「炭酸水は苦手だ」

とか、言う。

気まぐれ、というかこのひとの行動が読めないのはいつものことなので、俺は「そーですか」と受け流す。

ここで、じゃあ何で買ったんだ?という質問は意味を持たない。

何故ならその答えは十中八九、

「なんとなく」

だからだ。



思っていることを語る。

本音を言う。

それは簡単なことのようで、そうでもない。



少なくとも俺やこのひとみたいな人種、には。



笑ったり、嘘をついてみたり、目を反らしたり。



そうやって自分を偽り、傷つくことに、慣れた目をしてる。



俺より、はるかに重度の、”うそつき”。



手を伸ばせば届くものすら、恐れてしまうほどの。



すべてを見抜いている訳じゃないし、そんな器でもないけれど、俺はこのひとに関しては決して”めんどくさい”を言わないようにしている。

ほんとうのことと向き合う回数を、増やしていきたいと思うから。



俺も、テマリも、






きっと、逃げることをやめたいのだ。









 
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