novel
□イーハトーブ
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『イーハトーブ』
たとえば、
死ぬことよりも怖いことがある。
そんなこと知らなかった。
人は人を必要として、そして、人から必要とされることを望むのだと、私は思っていた。
だけど 今は
(求められることがこわい)
「俺はたぶん、諦めが悪いんだよ」
珍しく真剣な面持ちで、シカマルは言った。
「だから」
遠くを見ているその目を、私はずるいと思う。
ここから逃げ出したいのと、それとはまったく反対の性質のものが私の中で押し合いを続け、つぶれてしまいそうだ。
「いつか、後悔する日が来ない保証なんて、何処にある?」
子供染みた疑問をぶつけてしまったと、我ながら情けなくなる。
彼の呆れた表情を想像して、そんな顔見たくなくて、私はすぐに目を伏せた。
臆病で、どうしようもない自分が嫌になってしまいそうだけれど、そんな私に、彼はどこまでも優しい。
どこか冗談めいた響きを持った声で、
「俺が保証する」
と言った。
小さく「それじゃだめか、やっぱり」と付け加える。
私は、理由が欲しかったんじゃ、ない。
ほんとうに保証が欲しかった訳でもない。
彼だって不安なのは分かってる。
(求められることはこわい)
それでも、すくんでしまって動かない足を、いつまでもそのままにしておくこともできない。
何かひとつでも動き出せば、噛み合わなくなったいろいろなものもきっと、回りはじめる。
重く軋んだ音が、聞こえた気がした。
そのひとつのことばを、手に入れてしまった。