novel
□グライド
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『グライド』
音楽が流れる。
叩きつけるような雨音に負けないよう、ボリュームを上げていく。
流れていくのは音だけではなくて、俺は今目の前にあって欲しいもののことを思った。
寝不足でも気分が悪い訳でもなかったが、どうも最近、頭に靄(もや)がかかったようにぼーっとする。
窓ガラスを勢いよく滑り落ちる水の間から、色をなくした外の世界を眺めていると、呼んでいる声が聞こえてきた。
声の主は、呼びながらもこちらに近づいてくる。
ドアをノックする音に、靄が少し掻き消える。
俺は返事をしながらそちらに近づいた。
母親から渡された白い封筒を見て、味気ないな、と思う。
手紙だ。
差出人は、テマリ。
もうどれくらい会っていないのだろうか。
こうして手紙のやり取りをし始めて、数カ月が経った。
「話したいことが多過ぎて、帰るまでに終わらないんだ」
会う度にそう言うテマリのことを、素直に可愛いな、と思った。
俺も同じだ、と言いたいけれど、うまく言葉が出て来ない。
かわりに、
「それなら、さ」
と、手紙を書くことを提案した。