novel
□around
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『around』
テマリが、倒れる。
それはスローモーションのように、俺の見開かれた目にゆっくりと映った。
「・・我愛羅、ちょっと大袈裟じゃん」
と、呟く声が聞こえる。
目の前にはベッドに横たわる、”貧血で倒れた”姉の姿。
隣には、俺が呼び付けた兄。
「珍しいねカンクロウ、あんたが心配してくれるなんてさ」
そう言う声は、まだ心なしかいつもより細い響きがある。
カンクロウは呆れたように笑って、
「そんだけ悪態つければ平気じゃん」
と言った。
そのやり取りの意味を、あれこれ考える。
もし、俺が、
テマリにとって、
カンクロウと”同じ”弟という存在なら、今の言葉は俺にも浴びせられたのだろう。
『我愛羅が心配してくれるなんてね』
そう言っているテマリの声を無意識に想像する。
「我愛羅」
それとは真逆の、優しい声が俺には掛けられる。
「すまない、心配かけて」
ごく小さな針が刺さったように、身体の中央が微かに痛む。
「もう大丈夫だからさ。
ふたりとも、戻っていいよ」
そう言うテマリに、カンクロウは頷き、何かを耳打ちしてから部屋を出て行く。
俺は、
何かをテマリに言いたい気がしたが、それを声に出す術を、
もっと言えば言葉にする術さえも知らない。
自分の感情が何なのか、それがまず、理解できない。