novel
□曇天
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『曇天』
雲ひとつない空。
を、ここしばらく見ていない。
特別気になってるわけじゃない。
ようは忙しくて空とか、見てる余裕がなかったわけだ。
速度を上げて雲が流れる。
そんな風に、例えば嫌なことなんかもふわふわと流れて行ってしまって欲しいなんて思っているのだが、
どうも最近、その”流れ”に不調を感じる。
テマリはいつも”ふつう”だ。
妙に明るかったりすることもなければ、やたら沈んでいるようなこともない。
何故、そう自分の中で良いペースを保っていられるのか聞いてみたところ、
「私から見ればお前の方がそうだ」
と言う。
なるほど、言われてみれば確かに俺はあまり感情の起伏を表に出さない。
それが本気であればあるほど、逆になんでもないフリをする。
そういう性分だ。
「言えばいいのに」
テマリは言う。
「キスして欲しいとか、さ。
スッキリするんじゃない?少しは」
「何だよ、急に」
テマリは、楽しそうに笑う。
「言えないの?したくないの?」
言いながら、俺の目を見る。
いつもそうだ。
その目を通して、テマリは俺自身も気づかない、俺の中のどこかにある何かに触れるように笑う。
それは今まで出会った誰からも受けたことのない心地良い感覚。