novel
□共鳴
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『共鳴』
常々、思っていたことがある。
それは、俺にとって言葉にするのは少し難しい。
人のリアクションを怖いと感じるのはあまり俺らしくないが、
相手が相手なら仕方がないとも言える。
”相手”は、俺の隣で別に何をする訳でもなく、座ったまま後ろを向いている。
「テマリ」
呼ぶと、
さっき将棋で負けたのを根に持っているのか、拗ねたような顔でこちらを振り返る。
「なんだよ、その顔」
「べつに」
俺は持っていた本を適当に置いて、テマリを抱き寄せた。
テマリは動じることもなく、顔を反対側に向けることで小さな抵抗をする。
「俺が何考えてるか分かるか?」
唐突な質問に、テマリはしばらくじっと俺を見ていたが、
「それならお前は、
私が何を考えてるか分かるのか」
と返した。
それを言われてしまうということは考えた。
(その程度のことなら分かるんだが)
俺にはこの女の考えというものがまったく分からない。
だから分かりたい、と思いながら、テマリの喉元に耳を寄せて「おい」と呼ぶ。
「なんか、言えよ」
「なんかって、何だ」
その言葉は振動として、俺の耳から身体の中へと流れ込んだ。
え、とテマリが不思議そうに声を上げる。
「今のでよかったのか・・?」
呆れたように呟く声も。
その、くすぐったいような響きを、ひとつ残らず俺の中にとっておきたいのに。