novel
□therapist
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『therapist』
体温が上昇しているような感覚に捕われる。
何のせいかはもう分かっているけれど。
脚に血が通うのさえ感じられるくらいに、速度を上げる鼓動。
その少し下の辺りを、ぎゅっと、掴まれたように痺れていく。
そんな風になることが、何度もある。
それは決まって、あるひとと一緒に居るときだった。
その人に向けられた感情が、この不調の原因。
俺は自分で言うのも何だが、人より多少ひねくれたところがある。
あまのじゃくというやつだ。
ねじ曲がっているのだ(言い過ぎた)。
とは言えこれは生まれ持った性分だと思っているので、あまり気にしたことはない。
いや、今まではなかった。
そう言えば、言いたいことと反対のことしか言えない病気にかかってしまった少女の話を、子供の頃読んだことがある。
それはもちろん造り話だが、もし本当にそんなものがあるなら、いっそ俺はかかってしまいたい。
そうすれば、俺は元々思っていることの反対を喋るんだから、
一周回って本当のことが口から出るだろう。
(あれ、あの話って)
結局どうなるんだっけ。
そんなことを考えていると。
「シカマル」
背後から弾んだ声で呼ばれた。
「何だよ」
迷惑そうに俺は眉間に皺を寄せて振り返る。
同時に襲う後悔の念。
だけどそんなことはお見通しだと言わんばかりに、その女は目を細めて笑って見せる。
大人の余裕、というやつだろうか。
実際、彼女は俺より3つほど年上だったと思う。
「驚いただろう、私が来て」
「まあな」
今回、砂から来る使者は違う人だと聞かされていて、
(認めたくないが)少なからずショックを受けたのに。
到着した彼女は――テマリは、
俺の顔を見るなり『何だ、その顔』と言って、笑った。
どうやら驚きと
(認めたくないが)嬉しさのあまりめちゃくちゃ変な顔をしていたらしい。