novel

□signal
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『signal』




雨が降ってきた。

私の故郷に雨は降らない。


「木ノ葉はいいな」

私は言った。

「来るたび違う顔に見える」


砂隠れの里に、木ノ葉ほどはっきりした四季はない。


「俺から見たら、変わり映えしないけどな」


私の隣を歩く男はそう言った。


「雨は嫌いだ」とも。






大切な人を失ったと聞いた。

それがどんな痛みなのか、私には分かる。


何度経験したって、決して慣れることのないもの。

そして忍なら、
慣れた
”ふり”をするのだ。



私は正直、彼が立ち直れるのかどうか心配していた。

まだ、15歳。

それなら仕方ない、と、柄にもなく優しい言葉を考えたりもした。


「シカマル」



名前を呼ぶと、彼は私の顔を見て笑った。


「何て顔してんだよ、お前」


私は、今にも泣きそうな顔だったそうだ。


強がっているとか、そういう風でもなく、ただ彼は笑っていた。

私は雨が降っているのを良いことに、少しだけ泣いたかもしれない。

「いつまでも子供じゃいられねえからな」

(そうだね)


もう何年も前のこと、仲間の無事に安堵して涙を流した奴は、もういない。

今、私の前を歩く背中はまだ頼りないけれど、
その時よりは、ずっと大きくて、力強い。


手を伸ばせば届く距離にいる彼が遠くに行ってしまったような気がした。



(それでいい)



自分に、言い聞かせる。





 
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