novel
□かなわないこと
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『かなわないこと』
夢を 見ていた。
夢だと分かったのは何故だろう。
現実には有り得ないことだと思うからか。
「テマリ」
俺は、前方に見えるそのひとを、呼んだ。
忘れるはずのない名前なのに、ひどく懐かしいような気がして、俺は泣きたくなる。
小さな水の流れに足を浸して、底を覗いたり水を跳ねさせたりしていたそのひとは、俺の声に気づいたらしく、手を振りながら笑った。
はじめてその笑顔を見たとき、それまでの俺のテマリに対するイメージは一気に吹き飛んだ。
今思えば、それがはじまりだったのだろう。