いばらの恋

□紅蓮地獄
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「……ここが“妖精の尻尾”か?随分と弱そうなヤツばっかだな」

「今のはほんの余興じゃ。」

「「クスクス」」




緑色の髪にハットを被った青年に続き、着物を身に纏った花魁風の女性。その両端でクスクスと笑みを漏らす双子。




「何者だ、オメェら!!!」

「よくもギルドや街を滅茶苦茶にしてくれたな!」




瓦礫から這い上がってきたナツとグレイは、皆の先頭に立つように奴等の前に立ち塞がる。




「―――今のはほんの挨拶だ」

「喜んで頂けたかしら?」



そんな二人の前に、新たに現れた二つの影。見る限り奴等も仲間だろう。

それにしても…尋常じゃない魔力だ。




「…何者じゃ、お主ら」

「……オレ達は闇ギルド“血の牢獄”」

「血の牢獄じゃと!?」




奴等が名乗りを上げ、マスターマカロフは一瞬驚きもしたが、すぐに奴らを睨みつける。




「見つけたぞ、名無しさん。月の巫女…」

『!!?』




奴等の中央に立つフードを被った男性はそう言うと、妖しい笑みを浮かべ、その視線は真っ直ぐ名無しさんに向けられていた。




「名無しさん!コイツ等と知り合いなの!?それに月の巫女って…」


『……、貴方は…』



その瞬間、彼女の脳裏に語りかける男児の声と共に、蘇る幼き頃の記憶の数々…。




「そいつを此方に渡してもらおうか」

「何だと!?」

「名無しさん!貴女狙われてるの!?」

『………』




名無しさんは額に汗を滲ませながら、ざわつく胸を押さえ、まるで彼等を恐れるように小さく後ずさる。




「…おい」

「あぁ」

「よく分かんねぇが、そう簡単に仲間を渡すかよ!!」




ナツがゴキッと指を鳴らし、グレイと共に走り出す。



「「名無しさんは渡さねぇー!!」」

「…バカな奴等だ」

「「うおぉぉ!」」

「…トウヤ」

「あ?何だよカイ」

『……、!!?』




カイ……

その名前に聞き覚えのある様子の名無しさんは、伏せていた顔を上げ、中央に立つフードを被った男を見た。


そして……
真っ直ぐ向かってくる二人を男は冷めた目で見やり、手短に済ませろ、とだけ呟いた。




「…りょーかい」

『っ!ナツ、グレイ!待って!』



トウヤが呟いた後で、自世界から我に返った名無しさんが二人を呼び止めるが、走り出した二人は止まることを知らない。




「ナツ!グレイ!後ろだ!」

「「な!?」」




赤毛の男性の命令に答え、一瞬で二人の背後をとったのはトウヤ。
二人が振り返る時には既に攻撃された後だった。




「ナツ!グレイ!」

「ヤラレているだけでは気が済まん。行くぞルーシィ!!」

「ま、待ってよ〜」




天輪の鎧に喚装したエルザは剣を手に、ナツ達の後に続く。その後ろを泣き顔のルーシィがついて行く。




「あたし達も行くよ!!」

「「「おぉ!!!!」」」

「オレ達も行くぞ、シェリー!」

「っ…はい!」




カナの声にギルドの皆が、一斉に敵に立ち向かう。それにリオンやシェリーも加わり、負けじと地を蹴った。




「このヤロー!これでも喰らいやがれー!火竜の…」

「アイスメイク…」

『待って!皆!』




ナツは口元に魔力を集束させ、グレイもまた、両手に魔力を集束させ、氷を造形させる。




「……ふん、」

「咆哮!!」

「ランス!!」




ニヤリ、と妖しい笑みを浮かべたトウヤは、迫り来る攻撃に対し一切動じず、ただただ二人を見やる。


そして、放たれた魔法はトウヤに向かっていくが、何処からともなく吹き荒れた突風と水流によってかき消された。




「「、な…!!」」

「…これは予想外。まさかの同士討ち?」

『……関係ない』




そう言って宙を舞う煙の中から姿を現したのは、ウインディとウォーティを召喚した名無しさん。

先程のナツとグレイの攻撃を遮ったのが彼女だと分かると、皆して驚いた表情をして彼女をみた。



「おい!名無しさん!何しやがんだコラァ!!」

『―――カイ。貴方だったのね、血の牢獄を動かしていたのは』

「…そうさ。極楽の匣を見つけ出し、己の野望を実現させる為にな!」

『野望の為…ですって?』

「そうだ。その為にはお前が必要なんだよ…月の巫女の持つ、月の魔力がな」




カイはそう言うと、彼を睨んだまま目の前に立つ名無しさんを指差す。
一方名無しさんは、仲間や愛する者、親しくしてくれた街の人達を傷つけられたことに、我慢の限界がきていた。





『己の野望の為に、関係ない人まで巻き込むなんて…許せない!』

「言ってろ。オレは昔から、お前のそういう所が嫌いなんだ…よぉ!!」

『ぐっ…』




カイは名無しさんを蹴り飛ばし、もう一度攻撃をするべく地を蹴る。
だが、やられてばかりの名無しさんではない。

空中で体勢を立て直し、不安定な地に見事着地すると共に、二体同時に精霊を召喚する。





『ウッド!ウインディ!』

《《御呼びですか、主》》



白色の魔方陣から現れたのは、それぞれ風と樹を連想させる姿で現れた精霊。



『極楽の匣は開けさせない!』

「お前は嫌でも匣を開けるさ。大切な仲間の為にな!」

『仲間を傷つけるなら容赦はしない!』




歯切れのよいところで、両者共に走りだすのを合図に、他のメンバーも負けじと走りだす。




『我が身に纏い、聖なる剣となれ!ウインディ!』



ウインディは自らの身体を風に変え、名無しさんの腕にその身を預けると、風の剣となった。

また、ウッドは自身の身体を無数の蔓や太枝に変換させ、周囲のサポートに回る。





「喚装!飛翔の鎧!」

「火竜の…鉄拳!!」

「アイスメイク…氷魔剣!」

「開け!金牛宮の扉!タウロス!」





エルザにナツ、グレイにルーシィが、次々と魔法や星霊を呼び出して目の前の敵を撃つ。

―――――だが、




「燃えろ燃えろー!」

「感電しないようにねー」

「「「うぉぁああ!!」」」




焔と雫の双子による隙のみせない連繋攻撃の前に倒れていくアイザックやビスカ達。


それに続き、着物を着た女性、紅玉の幻覚に呑み込まれ身動きが取れない面々は、トウヤの攻撃で傷ついていく。




「何だ?思ってた以上に弱いな、お前のギルド」

『……っ、』

「名無しさん!そんな奴に耳を貸すな!ぐあっ」

「グレイ様!!きゃぁあ!」

『っ!!グレイ!ジュビア!』




また、他のメンバーに続きシロナの攻撃により、グレイとジュビアが目の前で傷つき倒れていく。

そして、二人を庇うように立ち塞がるリオンとシェリーまでもがカイの魔法によって瓦礫の中へと飛ばされる。





「仲間を傷つける奴は容赦しないんじゃなかったのか?」

『っ…、アンタって人は……!!』




仲間が次々と目の前でヤラれ、怒りに我を忘れた名無しさんは感情のままに走り出す。








 
 

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