いばらの恋

□はじまり
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『ちょっと。あまり飲みすぎないでよ?お二人さん』

「お、お前!!いつ戻って……!!?」

『……ついさっきよ』



ため息を吐いては肩からさげていた鞄を下ろし、空いていたグレイの横に腰掛けた。

そこへ通りかかったミラに冷水を頼み、ジョッキを片手に頬を赤くした氷兄弟に視線を移す。




『久しぶりね、シェリー』

「ご無沙汰ですわ名無しさんさん。先々月の合同クエスト以来ですわね」

『怪我はもう、大丈夫なの?酷かったけど…』

「えぇ、すっかり」




綺麗な笑みを浮かべ他愛のない話をする二人。連合を組んで共に戦ったあの日から、少しずつ仲良くなった彼女達。今じゃお互い信頼できる仲である。

そんな中、片方に不満な表情を打ち付ける人物。その気配に勿論気づいていた名無しさんは




『リオンも久しぶり』

「……今のはわざとか?」

『さあ?想像にお任せするわ』




そう言ってニッと笑みを浮かべる名無しさん。リオンはふ、と息を吐くと苦笑いを浮かべた。
そこへ閃いたように口を開くグレイは




「お前、ここ一週間何してたんだ?」

『……ちょっと、ね』

「ちょっとって何だよ?」

『マスターに頼まれて情報収集してたの。結構大変だったわ〜』




仕事の出来の悪さに豪快なため息を吐いては、ミラの持ってきた冷水に手を伸ばし、渇ききった喉に流し込んでいく。




「情報収集?一体何の…」

『……闇ギルド“血の牢獄”』

「「「!!?」」」



空になったグラスを見つめ、さらさらと闇ギルドの情報を暴露しはじめる。




『新生六魔将軍が倒れてから姿を現した、単独の闇ギルドよ。彼等の実力は彼等と同等…』

「奴等と、同等の闇ギルド…」

「嫌な予感しかしないな」




闇ギルドの存在を聞いた途端、和やかだった空間は一変し、重たい空気が一気にその場を支配する。

そんな中、一つの黒い影が名無しさんに襲いかかる。




「名無しさんー!オレと勝負しろー!!!」

『悪いわねナツ。私いま疲れて…』

「勝負だあー!!今日こそケリつけてやらァ!!」

「ナツ!やめておきなさいって!!」

「いっくぞー!火竜の……」




離れたテーブル席で、いつものメンバーと楽しく飲んでいた筈のナツは、名無しさんとルーシィの声を無視し魔法を繰り出す。



『……はぁ…、』



毎回の事ながら、ナツのお遊びには手を焼いている名無しさんは、重たいため息を吐くと頭を抱えた。

そして次の瞬間、豪快な効果音と共に炎熱が名無しさん目掛けて襲いかかる。




「危ない!名無しさん!!!!」

「避けろ、名無しさん!」

『………無駄な事を。』



ルーシィやグレイの叫び声を聞きながら、椅子から立ち上がった名無しさんは一切動じることなく爆炎の前に立ち塞がる。

そして、ふ、と笑みを浮かべれば次の瞬間、ナツの放った爆炎は一瞬にして消えた。




「な…っ!何しやがった!!!名無しさん!!!」

『…何しやがった、ですって?』

「ま、まずいよ…」

「ナツの自業自得だな。彼奴に明日が来ればいいんだが……」

「まずいって何がよ?てか、明日が来ればいいってどーゆー意味よ!!?」




顔を真っ青に染め上げ、震え上がるハッピーに対し、こうも冷静なエルザは自身の目の前に置かれたショートケーキを黙々と食していた。

そして、ルーシィの声が響くなか、黒い笑みを浮かべた名無しさんに標的にされたナツは……




『お前はギルドを壊す気かぁあああ!!!!』

「ギェェエエエエ!!!!」




名無しさんの一撃を喰らい、戦闘不能となったナツは顔面に痣やたんこぶをつくり、ロープで縛られ放置されるという、なんとも無様な姿となった。




『で、話戻すけど…』

「……さ、流石は紫陽花の君。」

「…あい」



何事もなかったかのように話す名無しさんに、最早歯向かおうなど考える者などいるだろうか。




『生憎、彼等はあまり自分達の情報を傘下ギルドにも公表してないらしく、正体不明なのよ。情報収集なんて無駄だったわ』

「その事なら問題ない」



まるでこの時を見計らったように現れた声の主。突然の登場にギルド内はしん、と静まり返った。

名無しさんのあとから聞こえた、聞き覚えのある声。


「いやはや苦難ではあったが、奴等の目的がわかった!」


マカロフから投下された突然の爆弾発言。それには、ギルドの全員が驚愕する。



「お帰りなさい、マスター」

「いやいや、違うでしょ!!!」



驚愕するギルドの全員とは違い、ミラは笑顔でマカロフを迎えた。すかさず、ミラにツッコミを入れるルーシィ。マカロフの発言に、全員が騒めき出す。




「じーさん。奴等の目的がわかったって本当か!!?」

「丁度、定例会や評議院でも議題にあがってな…地方のギルドマスターと話してたんじゃ」

「それで、奴等の目的というのは」




急かすグレイ達に対し、落ち着いた様子のエルザ。マスターマカロフは今話すと頷いてみせる。




「これは噂なんじゃがの…どうやら血の牢獄は古代人の封印した古代兵器を手に入れようとしているらしい。」

『…古代兵器?』

「どんなモノなんですか?その古代兵器とは」

「ふむ……、此所から西へ行くと“月の者”と呼ばれる種族の村がある。今は荒れ地として残っているが…かつて其所には“月の魔力”を持つ魔導士が住んでいた」

『……っ、』




月の者……


その名に、名無しさんは眉を寄せ俯いた。
嫌でも思い出される、忌々しい記憶…
それを振り払うかのように名無しさんは首を横に振り、マカロフに視線を戻した。







 
 

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