いばらの恋
□共に
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白い建物が無数に建つ街は、闇ギルドの襲撃で赤く燃え上がっていた。その後街全体は、名無しさんがウォーティで食い止めたものの、焼け野原と化していた。
『で、“奴等”についてはホントに何も知らないの!!?』
地にボロボロになって倒れている男の胸ぐらを、荒々しく掴み詰問する名無しさん。その姿からは、いつもの温厚な彼女は想像もつかない。
「ひぃっ………ほ……ホントに何も……知らないんです!!」
『…そう。嘘じゃないみたいね』
怯えきった男を持っていたロープで手足を縛り上げる。辺りには、同じような姿で気を失っている男たちがゴロゴロ転がっていた。
『今回も収穫なし……か』
名無しさんはそう呟くと真っ青に染まる空を見上げる。
「近頃、新手の闇ギルドが何やら企んでいると情報が入ってのぅ……」
『新手の闇ギルド……ですか』
「奴等の情報が欲しい。すまぬが頼めるか?」
『……了解です』
マスターの好意でやむを得ず情報収集をしているものの…ここ一週間で集まった情報はあまりにも少なすぎた。
『これ以上は危険かな。今回は終わりにするか』
戦闘に邪魔だと脱ぎ捨ててあったパーカーを拾い上げ、袖を通し、鞄を手に持ち自分のギルドへと帰っていく。
―――……
「ぷはー!やっぱ酒は美味いねえ!!」
「相変わらずの飲みっぷり」
刻は夕時。仕事から帰ってきた魔導士や、仲間と戯れるために集まった人達で賑わうギルド。いつもと変わらず、至って普通の光景。なのだが…
「おいリオン、飲んでるか〜?」
「グレイ。貴様は少々飲みすぎだ」
「リオン様も飲みすぎなのでは?」
ギルドの一角に腰を降ろし、何やら楽しそうにお酒を酌み交わしている三人組。そこまでは良いが、その人物に重視する。
『どうして?』
なぜ、蛇姫の鱗に所属する二人が妖精の尻尾に居るのか。肩からぶら下げた鞄が、擦れ落ちる勢いだ。
「あら、お帰りなさい名無しさん」
『ミラ。これは一体……』
「ああ、リオン達のことね」
ジョッキをのせたお盆を手に、ミラは私の視線の先に映る人物達を見てはふふ、と笑みを漏らす。
「仕事先でばったり会ったんですって。暇そうにしてたから連れてきたらしいけど」
暇そうにしてたから連れてきた、とは言っているが、リオンが易々と連れて来られる筈はないし。
しかし今此処に居ることに違いは無いわけで。
「恋人同士と言っても、合同クエストがない限り滅多に会えないんだから。今のうちに甘えておいたら?」
『っな……!!!!』
茹でタコのように赤面する私をくすくす笑いながら、カウンターへ戻っていくミラを睨むが、この顔では効果はなかった。
「ミラちゃん、こっちビール追加な!!」
「は〜い!ちょっと待っててね」
「おい!飲みすぎだぞ」
「堅いこと言うなよ」
「それも、リオン様の愛ですわ」
酔いが回ってきたグレイは、勢いに任せてビールを次々と追加していく。その正面で呆れているリオンと“愛”を連呼するシェリー。
「今のうちに甘えておいたら?」
不意に、先ほどのミラの言葉が頭を過る。リオンとは恋人同士なものの
所属ギルドが違く、ここ一ヶ月は会っていなかった。
合同クエストもなかったし…会いに行ったとしてもリオンが忙しいんじゃないかとか。そんなことばかり考えちゃって。
『……素直になれたらいいんだけどね』
ボソリと呟かれたそれは、誰の耳にも届くことなく。騒がしい空間の中へと消えていった。ふ、と息を吐けばゆっくりと歩き出した足は愛しい彼達の元へ。