赤い誘惑

□手に入らないのなら・・・
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手に入らないのなら・・・
ハサミを手に、テツヤに近づいてゆく。コツ、コツと足音を立てながら。そして言う、声色を低くして。

「最後にもう一度チャンスをやる。僕のモノになれ。」

しかし、その水色の瞳は揺るがない。そればかりかテツヤは薄く笑みを浮かべる。

「絶対にキミの言いなりにはなりません。」

ああ、やっぱりお前は強情だな。何色にも染まらない、黒。他のキセキは、全員赤に染まったというのに。だからこそ、僕はお前に惹かれたのだけど。

「だったら、今、ここで僕が赤く染めてあげる。」

その白く、細い首にハサミの刃を突きつける。僅かに血が雫になり、ツゥー、と流れ落ちる。
すると、彼は何やらポケットから取り出した。よく見るとその手にはカプセルが握られている。

「お前・・・」

嫌な予感がした。

「それはなんだ?」

「毒薬ですが。」

一体どうやってそんなものを手に入れた?

「どうやって?という顔ですね。ヒント、ボクは影が薄い。」

まさか盗んだとでもいうのか。

「言ったでしょう。ボクはキミの言いなりにはならない、と。」


最期までボクはキミに逆らいましょう。そうすればキミの心はボクで埋め尽くされる。永遠に。


「それではさようなら、赤司君」

赤司君に止められる前にカプセルを飲み込む。徐々に息が苦しくなっていく。しかし、ボクは赤司君の中で生き続けるんだ、そう考えると、この苦しみさえ愛しく思えてくる。





そうしてテツヤは眠るようにして息を引きとった。


自分で命を絶つなんて、そう呟いて僕は自らの胸にハサミを突き立てる。

流れてゆく血で、少しでもテツヤが赤い僕の色に染まるように、テツヤを抱きしめて僕は目を閉じる。

薄れゆく意識のなかでようやく気付くいた。ああ、そうか。初めから僕達は死を以てでしか一つになれなかったのだと。

(だったら、もっと先に殺しておけばよかった。)

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