a shining flower〜水道魔導器編〜

□05
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05.

どれくらいの時間が経ったのであろうか。
キュモール隊にボコボコにされたユーリは、薄暗く肌寒い牢屋のベッドの上で目が覚めた。
すると、自分の左隣の牢屋から胡散臭い声が聞こえてきた。
どうやら、見張りの騎士と話をしているようであった。

「で、その例の盗賊が、難攻不落の貴族の館から、すんごいお宝を盗んだわけよ。」
「知ってるよ。盗賊も捕まった、盗品も戻ってきただろ。」
「いやぁ、そこは貴族の面子が邪魔をしてってやつでな、今、館にらあんのは贋作よぉ。」
「バカな・・・」

牢屋に入っている男は情報屋なのであろうか、騎士でも知らない情報をつかんでいるらしい。

「ここだけの話な?
漆黒の翼が目の色変えて、アジトを探してんのよ。」
「例の盗賊ギルドか?
!!
ごほんっ。大人しくしてろ。もうすぐ食事だ。」

せっかくの退屈しのぎを見つけたのだが、その騎士に持ち場へ戻られてしまった男は今度はユーリに話しかけ始めた。

「そろそろじっとしてるのも疲れる頃でしょーよ、お隣さん、目覚めてるんじゃないの?」

「そういう嘘自分で考えんのか。おっさん、暇だな。」
「おっさんは酷いな。おっさん傷付くよ。
それにウソってわけじゃないの。世界中に散らばる俺の部下たちが、必死に集めてきた情報でな・・・」
「はっはっ。本当に面白いおっさんだな。」
「蛇の道は蛇。ためしに質問してよ。なんでも答えられるから。
海賊ギルドの沈めたお宝か?最果ての地に住む賢人の話か?
それとも、そうだな・・・」

男が話をしたくて仕方がないのだろう。食いついてきてくれるだろう話題を口に何個か出しているが、ユーリはそれどころではない。

「それよりここを出る方法を教えてくれ。」

自分の話を聞いてくれなくてショックなのだろうか、男の声が少し沈みはじめた。

「何したか知らないけど、十日も大人しくしてれば、出してもらえるでしょ。てか、なんでそんなに早く出たいの?想い人との約束でもあるの?」

おっさん好きよ、コイバナ。と付けたし、沈んでいた声が一瞬で明るくなった。

「は?んなんじゃねえよ。下町の事件知ってっか?それでだよ。」
「下町・・・ああ、聞いた、聞いた。水道魔導器が壊れたそうじゃない。」
「今頃・・・どうなってんだかな。」
「悪いね。その情報は持ってないわ。」
「モルディオのやつもどうすっかな。」

そういうとユーリはベッドから降り、牢屋の入り口に近づいて出れないかどうか調べ始めた。

「モルディオってアスピオの?学術都市の天才魔導士とおたく関係あったの?」
「知ってるのか?」
「お?知りたい?知りたければ、それ相応の報酬をもらわないと・・・」
「学術都市アスピオの天才魔導士なんだろ?ごちそうさま。」
「い、いや違う、違うって美食ギルドの長老の名だ、いや、まて、それは、あれか・・・」

せっかくの情報をタダで漏らしてしまった男性は、慌てて違う情報をと頭をまわしたがいい言葉が出てこない。
すると、身なりが他の騎士とは異なり威厳のある白髪の騎士がユーリのいる牢屋の前を通り過ぎ、男の前で止まった。

「出ろ。」
「いいところだったんですがねえ。」
「早くしろ。」

白髪騎士が男の牢屋の鍵を開けると、男は白髪の騎士のあとを数歩下がって歩きユーリの牢屋へと近づいてきた。

『・・・騎士団長アレクセイが何で?』

そう、その白髪の騎士は帝国の騎士団長であるアレクセイである。
以前少しだけ騎士団に所属をしていたユーリは、騎士団長の忙しさを知っている。
なのになぜ、こんな牢屋へわざわざ自分の足で男を迎えにきたのか疑問になるところである。
すると、アレクセイの後ろを歩いていた男が調度ユーリの前で躓いた。

「騎士団長直々なんて、おっさん、何者だよ。」
「・・・女神像の下。」

そう一言呟くと、男はユーリへと何か小さいものを滑らせた。

「何をしている。」
「はいはい、ただいま行きますって。」

そういうと男はアレクセイの後ろをまたついて行き、外へと出て行った。ユーリは辺りに騎士がいないのを確認し、男から受け取ったモノを見ると鍵であることがわかった。

「・・・そりゃ、抜け出す方法、知りたいとは言ったけどな。」

試しに自分の牢屋にその鍵を使ったところ、扉がすんなり空いてしまった。

「マジで開くのな。って相変わらずのざる警備かよ・・・。
これなら抜けだせっけど、脱獄罪の上乗せだけは勘弁だな。
下町の様子を見にいくだけなら、朝までに戻ってこられるか・・・
女神像ってのも試す価値はありそうだ。」

辺りに騎士がいないことを確認し、ユーリは牢屋を出て男の言った女神像を探しに城の中を徘徊しはじめた。




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